前回の上海からの帰国便では、機長さんのアナウンスがちょっと面白かった。”えーこれより関西空港まで、過去最高のフライトで皆様をお届けいたします.......次の御旅行の機会にも、アルファベットの10番目から始まる航空会社ではなく、アルファベットの一番初め、Aで始まる当社の便をぜひご利用いただきますよう、心からお願い申しあげます......”。爆笑こそ起こりませんが、機内ではクスクスと笑いをこらえる声があちらこちらから聞こえてきました。続いて英語でのアナウンスが入ったのですが、これはほぼ”定番のご挨拶”で、この内容は入っていませんでした。
日本の航空会社の機長さんのアナウンスでは、たまに面白い事を言う人がいます。昔は歌を歌い始める名物機長もいたそうですが.......そういえば大陸の航空会社では、そのような変わったアナウンスを聞いたことがありません。これもお国柄でしょうか。
他、機長さんからのアナウンスではないですが、この航空会社の別の便で印象に残ったキャビンアテンダントさんのアナウンス。
香港からの帰国便ですが、離陸前から空港周辺は暗くなるほどの厚い雲が垂れ込めて土砂降り。定刻通りに離陸しましたが、これは雲の上に出るまでに相当揺れるなあ、と思っていたら案の上、機体は相当激しく揺さぶられました。震度3−4の地震が連続して続くような感じでしょうか。どうしても雲は密度があって、雲の中は気流も乱れているので揺れますね。もちろん昔のゼロ戦と違い、現代の飛行機は頑丈で、雨雲に突っ込んだくらいでは壊れないわけですが、知らないと怖いかもしれません。
スウッと落下する感じがしたかと思うと”ドシン”という衝撃を感じて機体が大きく揺れたときなどは、機内から”キャア!”という悲鳴が上がりました。こういう時には機長から”当機は現在厚い雲の中を通過中で.....機体が激しく揺れておりますが.....飛行の安全性には全く問題がありませんので.....”というアナウンスが入りますね。続いてキャビンアテンダントさんが”激しく揺れましても飛行の安全性にはまったく支障がございません。どうぞシートベルトをしっかりとお締めになり、座席からお立ちになりませんよう.....”というようなアナウンスが流れますね。
大陸と日本の往復の便では、キャビンアテンダントさんのアナウンスは、日本語、中国語(普通語)、英語の順で流れます。ただこの時は相当雲が厚かったのか、かなり長い時間、揺れ続けていたように感じました。私はシートテレビプログラムの映画を観ようと思っていたのですが、機内のアナウンスがある間は、映像の再生は中断されてしまうのですね。いつまでも中断されたままなので「早くアナウンス終わらないかなあ」と思っていたのですが、なぜかこれがなかなか終わらない。一回英語のアナウンスまで終わってから、また”現在香港上空は厚い雨雲に覆われており、当機は雲の中を上昇中です..........雲の中では時々大きく揺れることがございます.......大きく揺れましても、飛行の安全性には問題ございません..........ご気分の悪くなったお客様は、座席前ポケットのエチケット袋をご利用ください....”と少し内容を変わりますが、同じようなアナウンスが繰り返されています。シートテレビが観られないので仕方なしに本を広げながら、なんとなしにアナウンスに耳を傾けていたのですが、いつもよりかなりゆっくりしたしゃべり方、ということに気づきました。
しゃべるスピードは人によって違うかもしれないですが、アナウンスのスピードについては聞き取りやすく話すように訓練されているはずなのですねえ。なのでこの航空会社の場合、いつの便でもだいたいスピードは一定。しかしこの時は明らかにゆっくり話していることがわかりました。英語の”.....Please fasten your seat belt securely.......”という英語のアナウンスも、初級英会話教室のレッスンのような、一語一語抑揚のついたゆっくりとした話し方。機体はガタガタと振動して、時々密度の濃い雲か気流が”ドン”という音をして機体にぶつかってくる衝撃を感じるのですが、小さな子供が泣き始めたりしています。そうしたやや緊張した雰囲気の機内で、「悠長」と言ってもいいほどゆっくりしたアナウンスが流れ続けるというのは、ああこれは揺れて怖い人の緊張を和らげるために、意図的にゆっくりアナウンスしているのだなあ、と気が付いたのでした。事実、アナウンスは機体が雲の上に出るまで続いたのでした。こういうあたりはマニュアル化されているのか機転なのかわからないですが、”よく出来ている。”と感じました。
中国の航空会社は最近は国内線でしか乗らないのですが、東方、南方、上海、海南、深圳、廈門、吉祥、春秋....etc、いろいろ乗りました。アナウンスは中国語(香港離発着の場合は広東語も)と英語、それも大抵早口でアナウンスされます。気流が乱れているときなどは、”We're experiencing some turbulence....."が切迫感のある早口でまくしたてられるので、いやがうえにも緊張感が増してきます.......まあ中国国内線は、ベルト着用サインが点灯しているのにトイレ行く乗客とか普通にいますので、ちょっと怖がらせるくらいがいいのか........それと場合によっては離陸後、着陸前は音声テープの再生。合理的と言えば合理的ですが、ちょっと味気がないような。その代り、着陸態勢前にリラックスを兼ねた体操の指導をしてくれる便が多いです。これはこれで面白い...............いや、”マクラ”が長くなりすぎました。
くだんの”A”で始まる日本の航空会社、私は大陸への渡航にはいろいろ便利な点が多いので、数年前からほとんどこの会社の便を使っています。マイレージもたまりますしね。月刊の機内誌が発行されており、これがなかなか内容が充実しているので楽しみしています。ここ数年はほぼ毎月利用しているので、毎号持ち帰って家に積んであります。
この航空会社が中国路線に力を入れているためか、中国の都市や街を紹介する特集「中国万事通」が連載されていました。そこで紹介されている場所や内容が実にマニアックなのですね。たとえば山西省の運城とか、雲南省の沙渓とか、私も聞いたこともない場所が登場します。いつだったか、徽州の万安鎮(ばんあんちん)が紹介されているのには少々驚きました。徽州の古鎮といえば、世界遺産の宏村とか、あるいは映画の舞台によくつかわれる南屏あたりが有名どころなのですが、よりによって万安鎮。しかも万安鎮の名産の羅針盤を紹介しています。
徽州は易学の研究が盛んな地域だったのですが、易学や方位学に欠かせないのが方位の正しい計測です。ある意味、徽州の歴史を代表する産品のひとつであるともいえるでしょう。
この万安鎮は徽州へ通い始めた2007年に訪れたことがあります。2009年に簡単に紹介しています。
(万安鎮)
徽州における中心市街の屯溪から、車で20分くらいの距離にあります。徽州では休寧県に属し、ちょうど屯溪と休寧県城の中間くらいに位置する古鎮です。
前回訪問したのは、万安鎮でも「古城巌」といわれる、岩山の上に築かれた集落のあるエリアで、今回は古城巌から新安江を挟んで対岸にある”万安老街”のエリアです。上の写真では、向こう岸の小高い丘の上に塔がみえますが、ちょうど万安老街から古城巌を眺める格好です。万安の老街の様子についてはまた別の機会にご紹介しましょう。
前述したように、万安鎮の名産のひとつに羅針盤があります。羅針盤といっても航海用のそれではなく、いうなれば方位磁針の精密なもの、というところです。
羅針盤は中国古代四大発明のひとつと言われています。宋代には船に取り付けられて方位を知るために使用されていたといわれます。また中国では陸上で方位を正確に測定されるために使われていました。たとえば中国の風水術は方位が重要です。”方角を占う”という言葉があるように、方角が正しくわからないと家も建てられないし、物の位置も定められません。葬儀も出来なければ、軍隊の進退も出来ない、というほどかの国の人々の意識、行動原理に深く影響しています。
万安鎮には、明を開いた朱元璋は、万安にある仙人洞という洞穴に隠れ住んだという伝説があります。またこれからどちらへ向かったほうが良いか、古城巌の上の塔にこもって占った、という言い伝えもあります。そういういった伝承にもなんとなく”方角を占う”という意味で羅針盤の存在を暗示しているように思えます。
万安鎮の羅針盤は、万安羅盤ともよばれます。万安羅盤は胡開文墨店も扱って日本へも輸出されたようですが、日本で万安羅盤の現存するものを見たことはありません。
2007年に訪れた古城岩は、万安鎮の観光開発エリアで、当時はまだ開発が進んでいる最中でした。今では参観に入場料が必要です。
前述したように、今回立ち寄ったのは、万安鎮の”老街”があるエリアです。この周辺の街道沿いに、万安羅盤を作り、売るお店があります。老街を少し歩いたあとで、”万安羅盤”を売るお店の一軒に入ってみました。
万安羅盤は円盤状にした木の中心に磁針を置き、方位の割り振りと方位名を小刻みに掘り込んでいます。大きな万安羅盤ほど方位の分割が詳細になります。この分割の精度が重要なのだとか。古くは二十四方位がありましたから、360度を24分割すると、方位が15度になりますが、分度規などを使わないで分割するそうです。また磁石が狂わないことと、磁力を失わないこと、また針の回転に偏りがない事が重要なのですが、これにいろいろな秘伝があるのだとか。針に磁力を持たせるために、強力な磁力をもった隕石に鐡針を吸引させ、磁力を持たせるのだそうです。そうすると、何百年経っても磁力が失われないとか。
羅盤に刻まれた古代の方位の呼称がいいですね。丑寅の方角、と言われても東西南北ではピンと来ないですが、この万安羅盤を観ればわかりやすい。小さいと方位の分割が少ないですし、大きすぎても気軽に持ち歩けないので、中くらいの大きさのものを1個買いました。
私の人生航路も気流の悪いところを通過中なのか、いささか迷走気味。ひとつこれで方角でも占ってみよう、というところです。