AI雑感

.....先日、上海から友人が来日していたのであるが、彼は昨年の暮れから一か月ほど渡米していた。彼は技術者で製造業、技術系のお仕事、という事でなおさらそうなのかもしれないが、アメリカにおけるAI利用の普及はすさまじいものがある、と話をしていた。さらに中国における生成AIの進化も驚異的である。

日本も、今更ながらにデジタル庁が創設され、国を挙げてデジタル化に取り組んでいるが.....正直なところ周回遅れではないだろうか。極言すれば、デジタルの世界、あるいはデジタル化できる世界では、人間は生産性においてAIには勝てないからである。

しかし考えてみれば、日本で家庭用パソコンが普及し始めてから40年くらいではないだろうか。1995年にウインドウズ95が発売されて、パソコン通信からインターネットの時代が始まり、いやおうなしに学校や職場でもパソコンを導入するようになっていったと記憶している。
いずれAIの進化と深化により、パソコンに入力し、デジタルの世界で行われる仕事のほとんどの領域から人間が駆逐されるのではないだろうか。
SFで出てくるように、マザー・コンピューターに音声で質問し、音声で答えをもらう、というような世界はすでに現実化している。ほとんどの企業では、業務に沿って適切な回答を用意する.....LLMを構築する......ことが企業経営者の仕事になるのかもしれない。
ちょっと歴史家的な視点でみれば「20世紀末から21世紀初頭にかけて、人類はデジタルデータをキーボードで入力し、学習や仕事をしていた。」というように記述されるのかもしれない。

正直なところ、そういう世界に早くなって欲しい、いやなって欲しかったくらいである。この文章もキーボードで入力しているのであるが、正直、キーボードは嫌いである。できればペンや鉛筆でカリカリ書く方が良いのであるが、生産性を考えるといかんともしがたいので使っているだけである。
効率化の為に人間がデジタル依存し、見方によっては従属していた時代が、AIの進化によって終わるのかもしれないし、そう期待している。AIがデジタルの世界から人間を解放してくれる、といえば楽観的に過ぎるだろうか。

対話型AIや生成AIは、今や驚くような結果を出力してくれるが、専門家の視点で見れば、まだまだ未熟なところが見える事もあるという。ただ、それも人間の予想以上にAIが早く進化することで、解決してしまうだろう。なぜそう思うかといえば、かつて将棋の世界における人工知能の発達がそうだったからである。専門家の大半がまだまだ遠く及ばないと思っていたら、ある日あっという間に人間を越えてしまうのである。そういう事は、デジタル化されたデータを介して行われていた、あるいはデジタル化が可能な、あらゆる分野に及ぶだろう。

そうなってくると、ほとんどの人間の仕事はデジタルから離れてゆき、いずれフィジカルを通じてリアルな世界に働きかける事にしか、価値が見いだされなくなるだろう。振り返れば、コンピューターが発明され、日常に浸透するようになったのも半世紀くらいの間の出来事である。人類史的に見ればこれはAI出現の前段階だったと、みなされるのではないだろうか。やがてAIが社会に浸透して後は、ごく少数の専門家を除けば、コンピューター出現以前のアナログとフィジカルの世界の活動に、人間が戻ってゆくのかもしれない。

いささか我田引水的に考えると、生成AIの進化によってデジタルアート全盛の時代が終焉し、ふたたび書画や水彩、油彩画に価値がある時代に戻るのではないだろうか。というのは、その予兆のようなものが、僅かであるが、始まっている事が感ぜられるからである。これはパソコンの画面を開いて検索をかけているだけではキャチできない、街を歩いているとわかるごくわずかな変化なのであるが.....今のところうまく言語化することが出来ていない。
インターネットの登場がそうであったように、好むと好まざるとにかかわらず、生成AIがもたらすインパクトはアートの世界を激変させるだろう。むろん、デジタルのみならず、アナログの世界も変化せざる得ない。
とはいえ、目下の関心は文房四寶の世界に集約されるのであるが、そこでは今まで見られなかった事が起きている。これは生成AI登場の少し前からの現象であるが、おそらく生成AIがその変化を加速させるだろう。手遅れにならないうちに対策を講じなければならないと、日々考えている次第である。
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能登その後

能登に住む親戚は先週くらいに避難所から自宅に戻ることが出来、水道はまだ復旧していないようですが、近所で井戸水を分けてもらっているそうです。オール電化の電気は使えているという事でひとまず安心しているところです。
親戚のうちは母方の実家であり叔母が継いだのですが、子供のころお盆に親の帰省についていってよく遊んだものでした。当時、田舎とはいえガス電気上下水道はもちろん通っていたのですが、風呂は薪で沸かし(近くに製材所があり、端材はいくらでも手に入りました)、井戸水をくみ上げて使っていたようなところでした。

志賀町の方は米農家が炊き出しをしたり、お節料理がほぼ手付かずで残っていたり、たいていの家では納屋や床下には米や味噌、梅干しや”へしこ”などが貯蔵されているので、食べ物はなんとかなったそうです。しかしこれが奥能登の輪島穴水七尾になると倒壊家屋や火災が多く、状況がだいぶ違っているのではないかと思います。最大震度7の志賀町では倒壊が奥能登ほどなかったという事なのですが、これはなぜなのか......
その昔、奥能登や輪島や能登島へも志賀町から車で遊びに連れて行ってくれましたが、小高い山を越える道になります。察するに山道が通れる状況ではなく、奥能登で食糧事情がひっ迫しているのもそのためではないかと考えています。金沢から志賀町、また金沢から奥能登のルートは確保されているようですが、志賀町から奥能登の道路が通行止めか、通っていても片側通行になっているのでしょう。

石川県はかつて『加賀百万石』と呼ばれた米どころでもあり、能登半島も羽咋市あたりまでは水田が多いのですが、奥能登になると「千枚田」に象徴されるように、水田に適した用地が少ないものです。このあたりも、現在の奥能登の苦境に影響しているのではないかと思われます。
能登半島は小さな漁港がいくつもあるので、海路で輸送はできないものか?という事も考えたのですが、地震に伴って多くの漁港で海底が隆起し、水深が浅くなって少し大きい漁船では岸壁まで近づけないようになっています。港の復旧にはだいぶ時間がかかるでしょう。

能登半島も高齢化と過疎化が進行している地域ではありますが、漁業や林業、水産業、「能登牛」に代表される畜産業など、都会に米や新鮮な野菜や魚介類や肉類を供給してくれています。また日本に住む以上、地震の無い地域はほぼ無いと言っていいわけですから、このような時こそ「お互い様」の精神でありたいものではないでしょうか。

店主 拝
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ウクライナ・ロシア戦争に思う (4)

金剛山山頂から大和葛城山山頂へは2時間ほどあれば到達する距離にある。二つの山の標高差はそれほど大きくはないのだが、より南に位置する金剛山の方が総じて気温が低く、積雪が多い。

なので気温があがると先に大和葛城山山頂の雪が消え、泥濘に覆われる。ついで金剛山山頂の雪や氷結した地面も解け始めるのだが、そのころには大和葛城山の泥も乾き始めている、という具合である。

大和葛城山の麓では白い梅花が咲き始めていた。

......あるいは事実上、第三次世界大戦の世界を生きている、という認識が必要かもしれない。今回のクリミア併合からウクライナ戦争へいたる経緯は、第二次大戦に突入していった経緯によくに似ている。
今回も第二次大戦前夜と同じく、国際機関も、各国首脳の連携も、結局は戦争抑止に効果は無かった。いまのところウクライナとロシアとの間に戦火が限定されているのは、ロシア軍が想像以上に無計画で、かつウクライナ軍が効果的な準備をしていたからに過ぎない。世界大戦への発展が阻止されているのは、国際政治や外交のチカラではなく、ウクライナの軍事力に拠っている、という見方も可能かもしれない。

開戦前、キーウ北方のベラルーシに集結したロシア軍はわずか3万人だったという。ウクライナ軍は常備軍20万に予備役20万を動員し、合計40万。少なくとも5万〜6万は首都キーウの防衛に置くことが可能であっただろう。市街戦は最後は人対人の戦いになる。数にも地の利にも劣るロシア軍が攻略できる見込みは薄い。ゆえにロシア軍の計画というのは、やはりゼレンスキー大統領が亡命するか拘束され、キーウが短期間に開城するだろう、という”甘い”見通しに拠っていたのだろう。作戦が成功した場合、ロシア軍の戦車や装甲車はキーウやその郊外の街や村に急速に進駐し、支配の実効を図る程度の準備しかしていなかった、と察せられる。
キーウの初動作戦が頓挫した後、急遽北東から部隊を呼び寄せた。しかしこの方面の増援は補給線も戦線も細く長く伸び、各所で待ち伏せ攻撃を受けて寸断されている。
当初の計画の失敗に糊塗に糊塗を重ねたところで、組織だった抵抗を見せるウクライナ軍を撃破することは不可能であろう。

しかし第二次大戦の際に、ドイツ国防軍がポーランドやフランスをあっという間に制圧したように、ロシア軍がウクライナを短期間で制圧出来ていたとすればどうだったであろう?


隣接するチェコやハンガリー、ルーマニア、ポーランドに圧力をかけ、NATO脱退を促し、傀儡政権の樹立をはかる。それが出来なければ親ロシア派と称する団体を武装蜂起させ、介入する。これを繰り返すであろう。69歳のプーチン氏の余命があと何年あるかはわからないが、おそらく彼が死ぬまで、ヨーロッパに平和は訪れない。
それがわかっているから、ウクライナに隣接するポーランドやルーマニアなどのNATO加盟国は、強い当事者意識を持って支援を継続している。特にEU諸国からの防空システムや対戦車兵器などの武器供与は、大きな力になっているだろう。

しかしアメリカやEUの指導者は、当初はプーチン氏の核の脅迫(ブラフ)に乗った体ではある。とくにアメリカ合衆国大統領バイデン氏の言動は、開戦前から首をかしげる事が多い。

ではどうするべきだったのか?(という事をここに書いても仕方がないが)プーチン氏が恐れているのは、NATO諸国、特にアメリカの軍事介入である。それを実際に行わないまでも、プーチン氏の脳裏に”もしNATOやアメリカが直接軍事介入してきたら”という疑念を、不確定要素として貼り付けておくくらいの事はしても良い。それがむしろ、プーチン氏の懸念を払拭するような言動が多くみられるのである(ポーランドからの戦闘機29機の間接譲渡を拒否した事等々)

攻撃兵器供与なら「第3次大戦」 与党会合で警告―米大統領
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022031200384&g=int

上記のような事を懸念するのは構わないが「第三次世界大戦の勃発」懸念していることが相手に伝わるという事は、相手にとっての懸念(アメリカ参戦の可能性)がひとつ払拭される、ということである。

”アメリカは世界の警察官ではない”事自体は構わないかもしれない。それをわざわざ宣言し、非道な野心家を安心させる必要もなかったのである。

目下、世界はロシアへ空前の経済制裁を実施している。厳しい経済制裁は、後方のロシア経済を破壊する、いわば戦略爆撃に等しい。充分な効果をあげるであろう。ただその措置は、(国情によるのだろうが)各国に温度差がある。
またロシアは手持ちの資源を使い切ってしまうまで戦争を継続することが出来る。特に天然資源に恵まれたロシアは、差し当たって原油、天然ガスなどのエネルギーの問題は無い。ロシアがいつまで戦争を継続できるかは不明であるが、続く限り、ウクライナの都市は破壊され、市民と両軍の犠牲者は増え続ける。

経済制裁は、最終的にプーチン氏にウクライナ併合を諦めさせる効果をあげるだろう。しかし可能な限り早期に戦争を終結させるためには、もっと踏み込んだ対処の仕方が必要なのであるが、それをする意思は見られない。

今や戦況を概観すれば、ロシア軍は常備27万人の地上軍のうち20万人をウクライナに投入しながら、首都キーウはおろかハルキウ、マリウポリなどの主要都市をひとつも攻略できていない。ウクライナ戦線のロシア軍は戦力が枯渇しつつあり、国内から新兵を動員し、果てはシリアから傭兵をかき集めて前線に送ろうとしている。この上さらに、ウクライナと同じくらいの戦力をもつ国家を相手に、戦線を拡大する余力はないのである。
ゆえに第二次大戦において、西部戦線でイギリスと交戦中のドイツ国防軍が、東部でソ連に対し開戦したような、際限のない戦線拡大はもはや現実的ではない。
ウクライナ戦争開戦前はわからなかった、ロシア軍とウクライナ軍の実力の差が明らかになり、ウクライナ軍の優勢が明確になった。しかしポーランドの戦闘機供給提案を蹴ったことにみられるように、バイデン大統領は、ウクライナ軍がロシア軍を完全に撃退する方向への支援を行わない。のみならず、アメリカとしては交戦国とみなされるような支援はしないと明言し、やはりプーチン氏にとっての不安要素の払拭に努めているかのようなのである。これもかつてヒトラーが、アメリカ参戦の意思がない事を確信し、ソ連侵攻に踏み切った経緯によく似ている。

もちろんプーチン氏は、バイデン大統領他、西側主要国首脳の人物をよく見て戦端を開いたのであろう。

アドルフ・ヒトラーはベルリン陥落直前に自殺した。文字通り破滅したのであるが、プーチン氏はそこまでして”大ロシア主義”に殉じる気持ちは無いだろう。ヒトラーは家庭を持たなかった。プーチン氏には家庭があり、権力のほかに12兆円とも20兆円ともいわれる莫大な資産がある。
ヒトラーは美術品を強制的に蒐集したり、ユダヤ人の資産を没収するなどしたが、私生活は当時の欧州の指導者としては質素である。特にベジタリアンであったことは知られている。貴族社会を嫌悪し、反ブルジョワを掲げただけに、貴族的な贅沢に耽る趣味はなかったのである。しかしプーチン氏(だけではなくソ連の歴代書記長)には明らかにそれがある。独裁者という地位を楽しみ、権力を利用して資産を築ける人間というのは、それを失うのが何より怖いのである。

核兵器という、いわば”最後の切り札”を脅迫に使い、侵略という”ゲーム”を仕掛けるような独裁国家、独裁者と渡り合う方法は、歴史に例を見る事が出来る。
例えばキューバ危機における、アメリカのケネディ大統領とソ連のフルシチョフ書記長の対峙があるだろう。フルシチョフはキューバにミサイル基地を建設し、アメリカ全土をミサイル射程圏に収めようとした。ケネディは一歩も引かず、いわば史上最大の”チキン・レース”に勝利した。
両者が譲らない事で”一触即発”にまで緊張が”エスカレーション”する。しかし両者破滅が必至ゆえに、引くに引けない相手が、周囲を納得させた形で手を引けるのである。

ウクライナのゼレンスキー大統領は外交に失敗した、だから戦争に突入した、という批判がある。しかし彼に開戦前の失敗があるとすれば、むしろあくまで外交に努めた事、すなわちアメリカやNATOを頼ろうとしたことであろう。アメリカやNATOは結局ゼレンスキー大統領の外交努力に応えなかった。これがプーチン氏に”弱腰”に見え、実力行使に傾いた事は否定できない。
開戦前からウクライナが徹底抗戦の決意をみせれば、軍事的緊張は高まり、ゼレンスキー大統領がむしろ緊張を煽っていると批判する声も上がったかもしれない。しかし、プーチン氏のような、いわば”マフィア”そのものの手法を使う”無法者”相手に、外交や国際法だけでは対峙出来ないのである。

馬鹿馬鹿しいかもしれないが、脅迫、恫喝をしてくる相手に弱気を見せるのは禁物で、逆に恫喝が効くのである。むろんそれは実力(=軍事力)が、相手より上位にある者が行うのが効果的である。

最近(でもないが)の例では、2002年に当時のブッシュ大統領が北朝鮮を”ならず者国家”に指定し、日本の首相が「ならず者国家!」と叫んだら、何十年も認めなかった拉致を認め、拉致被害者の一部が還ってきた。
軍事力、核を背景に脅迫に拠る”瀬戸際外交”する者は、やはり脅迫や恫喝に屈するよりない。それは最高権力、莫大な富と贅沢な生活、一族の繁栄を犠牲にできないからである。

ただこうしたアイデアは、”国際法を順守しましょう”という向きには到底認められないであろう。仮に周囲にアドバイスをする人間がいたとしても、実行する指導者が、それが相手の”ブラフ”であることを確信できなければ出来ない。”万が一の懸念”にとらわれ、何も出来ない。弁護士出身のバイデン大統領には、特にその性向を強く感じるのである。そういった指導者、権力者の性格を見抜けるプーチン氏の洞察は、やはり鋭いものがあるだろう。

ロシア軍の大半、キエフの25キロ圏内に到達か 各地で「町が消滅」
https://www.cnn.co.jp/world/35184797.html

ロシア軍がキーウ北方に集結しているというが、これは部隊を再編成し、補給を行って戦闘力を回復する行動である。チェチェンやシリア、あるいはロシア国内から増援が送られているという。
しかしロシア軍がウクライナ軍に勝てないのは軍の「数の問題」ではなく、装備や編成、補給、通信といった「システムの問題」なのが明らかである。だから増援を送って数を増やしても、戦局を挽回するにはいたらないだろう。改善するには装備を一新し、編成、訓練からやり直さなければならない。それはもはや不可能事だ。

ウクライナ紛争、「戦略的転換点」迎える=ゼレンスキー大統領
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-zelenskiy-war-idJPKCN2L82BZ

ウクライナのゼレンスキー大統領は一昨日にこう宣言し、初めて”勝利”という語を口にした。これは停滞を始めたロシア軍に対し、ウクライナ軍が守勢から攻勢に転じる時期が到来した、という事を示唆している。事実、前述のキーウ北方で再編成を進めるロシア軍に対し、ウクライナ軍は砲撃や空爆を実施している。車輛に偏ったロシア軍は、いったん移動が止まると、砲爆撃の標的になるよりない。

とはいえ、このウクライナ戦争の帰結がどうなるか?については予断を許さないものがある。西側諸国の対応が武器供与と経済制裁に限定され、軍事介入を仄めかす事すらしないとすれば、ウクライナは自力でロシア軍を撃退するしかない。少なくともプーチン氏が絶対に失いたくないであろうクリミア半島を奪還するか、奪還可能な形勢になるまで、戦い続けなければならない。戦況を見る限り、それは実行可能である。ウクライナ軍にはロシア軍を撃退するだけの能力がある。

しかし空軍力の不足により、充分な制空権を握れないということは(ロシア軍もウクライナ側の防空システムの機能で、制空権を掌握できていないが)反撃に出る際のウクライナ軍の損害を大きくし、かつ急速にロシア軍を追い込むことを難しくさせるだろう。ウクライナ軍の空軍力は限定的で、黒海の制海権も持たないとなると、クリミア半島の奪還には困難を伴うだろう。

一方で”落としどころ”を探り始めたプーチン氏は、ウクライナに展開するロシア軍には、どんなに不利でも戦闘の継続を厳命しているだろう。それは交渉で優位に立つというよりは、もはや劣位に立たないためで、そのためには自軍の将兵の死傷などは意に介さないだろう。

またウクライナ軍に対して有効な打撃を与えられないロシア軍は、ウクライナ市民を標的にし、クラスター爆弾などの無差別殺戮兵器を使用し始めている。生物化学兵器の使用も懸念されているが、NATOは化学兵器を使用した場合、軍事介入すると警告している。しかしロシア軍は、通常戦力が枯渇しはじめた場合、ためらわず使用するだろう。それはシリアで(当時のオバマ大統領の警告にも関わらず)実際に実行されたことだ。(そしてオバマ氏は結局軍事介入しなかった)

無論、毒ガスや細菌兵器を使用しても、戦局をロシア軍優勢に導くことは出来ない。冷酷であるが、ウクライナ市民がいくら死傷しても、ウクライナ軍に損害を与えない限り、戦況がロシア側に傾くことは無いのである。
しかしウクライナ共和国の大統領、ゼレンスキー大統領は、プーチン氏のように市民の死傷を意に介さない人物ではないだろう。それだけに苦悩は深いものがあると察せられるのである。

ロシア地上軍がウクライナで戦争継続の能力を喪失した時、アメリカではなくても、たとえば周辺国のポーランドやトルコであっても、軍事介入を念頭にロシアに強く停戦を迫ることが可能かもしれない。前述したように、ロシア軍にはもはやNATO加盟国のうちの一国とすら、戦う余力は残っていない。

現に、トルコはウクライナとロシアに交渉の場を提供している。開戦直後、ハンガリーが交渉を提案して蹴られているが、その時からは状況が変わった事を示している。またゼレンスキー大統領はエルサレムでプーチン氏と会談することを提案しているという(プーチン氏が現在地球上でもっとも会いたくない人物はゼレンスキー大統領であろうが)。


事態は際限ない拡大から、収束へ方向を転じた兆しがある。

日々刻刻と市民の生命と財産の破壊は続いている。やはり一刻も早い終結を願わずにはいられない。

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ウクライナ・ロシア戦争に思う (3)

家を出る時間が遅い時は、大和葛城山を諦めて金剛山から和歌山方面へ向かう。途中の行者杉で奈良の五条市に下りるルートで下山する。おりきったところに大澤寺という、白鳳時代に基礎をたどれる古刹がある。

登山道から寺に向かう路上に、愛らしい狸地蔵が並んでいるので、いくらかの小銭を置くのを常としている。いつの時代に出来たのかわからないが、昨日今日ではなさそうである。最近まで夫婦狸かと思っていたが、兄弟だそうだ。まわりを良くみるべきである。


実際に、この付近で狸を目撃した事がある。登山道の終わり、車道が見えるころに、道をふさぐように狸がこちらを見ていたのである。スマートフォンのカメラで撮影しようと取り出しているうちに、くるり、と踵を返して逃げ出てゆき、狸地蔵の裏手の畑を横断して繁みに消えていった.......察するに、昔からこの付近には狸が住み着いていて、狸地蔵の由来もそれに基づくのであろう。


ウクライナの戦火は止まない。ロシア軍は攻撃目標を民間人や民間施設にシフトし、日に日に被害が積み重なっている。

ここ数日、ロシア連邦大統領、ウラジミール・プーチン氏の戦争の動機について考えてみたのだが、前回投稿した際に触れた”大ロシア主義”というのは、おそらく本音ではないだろう。つまり自らが信奉するイデオロギーに殉教するつもりで、戦争を始めたわけではない。

そもそもこの”大ロシア主義”は、かいつまんでいえば、おそらく第二次大戦前において、アドルフ・ヒトラーが信奉した”大ドイツ主義”の粗悪なパロディに過ぎない。さしずめオーストリアはウクライナ、ウイーンはキーウ、民族学が地政学、というところだろう。こうした雑な思想がロシア国内に存在し、ある程度の支持を受けているのは事実だろう。これはソ連邦崩壊後の思想の空白を埋めようとするロシア知識人の中で生まれたか、ソ連時代からすでに存在し、共産主義思想の瓦解の後に広がったものと考えられる。

核兵器に言及するプーチン氏の精神状態を危ぶむ声もあるが、考えてみれば”核”というカードを使ってまだ”ゲーム”をしているのであるから、打算する思考は働いている。つまり核兵器を実際に使う意思はない、と考えられる。


数日前、ロシアの航空会社のスタッフを相手に、会談した姿が報道された。

プーチン大統領「戒厳令、考えていない」 国際女性デー前に航空職員らと会談
https://www.sankei.com/article/20220306-6UGAOL3WX5NMRLWZXVBOZHJVZE/

こういう事が出来る人物というのは、まだ周囲が視界に入っている、という意味で判断力は残している。精神が異常な状態で核ミサイルの発射ボタンに手をかけるような人物は、このような事は出来ない。(さすがにロシア軍内部でも、大統領が”発狂”して核戦争にならないよう、考えられた手続きやシステムになっているはずだ)

しかし”切り札”を脅しに使っている時点で、実のところ余裕がないのはプーチン氏のほうなのである。

世界は第三次世界大戦、核戦争の懸念から、その”脅し”に乗った体である。多くの人間は”万が一”の事を”懸念”する。それに自身の責任が加わると、もう動けない。プーチン氏はそこをつき、ブラフをかけている。

プーチン氏は理想や思想に、自身の地位や生命を捧げる気などまったくないだろう。ゆえにむしろ、戦争の動機は真逆のところにあるのではないだろうか。つまりもっと実利的なところである。
リアリストの仮面をかぶったプーチン氏が、隠れた理想家、夢想家で(贅沢にも飽き)人生の最後にその実現にひとつ命をかけてみよう、という気になったのであれば、実に厄介な事である。しかし本音では”利益”を求めているのであれば、どこかで交渉や妥協を強いる余地はある。(むろん、ウクライナ側が要求を呑む必要は、原則無いが)

察するにプーチン氏のクリミア半島、さらには黒海沿岸への異様な執着は、帝政ロシア貴族〜ソ連時代の共産党特権階級、いわゆる”赤い貴族”達に共通する”暖かい海”への憧憬の念に通じるのだろう。
ソ連邦の創始者、レーニンの王侯のような生活は有名だが、歴代の書記長たちも例外なく豪壮な私邸のほかに、”ダーチャ(庭園付き別荘)”を持った。ゴルバチョフ氏すら、黒海沿岸に豪奢な別荘を建てる事をためらわなかった......プーチン氏も、正しくこの系譜に連なる人物なのだ。

クリミア半島には、ロマノフ王家が夏を過ごしたリヴァディア宮殿がある。またセヴァストポリ要塞、ヤルタ.....帝政ロシアの栄光と歴史が眠っている。それらへの強い憧れと欲求が、プーチン氏の今回の行動の根底にあるのではないだろうか?
ある意味”王様になりたい”というような子供じみた”夢”であるが、プーチン氏の言動を追ってゆくと、そうした子供じみた事をする証拠が出てくる(長くなるので挙げないが、犬嫌いのメルケル氏の前に大きな犬を連れてくるところなど)。

ともあれ換言すれば、プーチン氏はロシア連邦という民主国家の大統領ではなく、若いころに目指したソ連邦の書記長、いうなればかつての”赤い貴族”達の頂点になりたがっている、と私は勝手に推察している。
プーチン氏のそれもある意味で”夢想”であるが、求めているものは思想上の理念ではなく、もっと具体的な形や価値をもったものである。また苦心を重ねてロシア連邦大統領になることで、彼はそれを半ば達成した事になる。しかし満足できなかったのだ........おそらく。

プーチン氏にとって何より許せないのが、ウクライナ大統領府であるキーウのマリア宮殿に、コメディアン出身の男が座っている(故に民主国家なわけだが)ことかもしれない。作戦上のキーウへの執着、開戦当初のゼレンスキー大統領の逮捕・処刑の宣言、繰り返される(と報道される)暗殺計画は、どうもそのあたりに理由が求められるような気がしてならない。(それが矛盾に満ちた作戦計画に現れている。)

しかしそういったおのれの欲望の為に戦争を起こし、自他国の市民や軍に多大な犠牲者を生んではばからないとすれば、現代の国家指導者としてのみならず、人間としても”異常”と言っていいだろう。そこには確実に”自制心”の衰えがみられるのである。また戦争の経緯にみる、楽観、矛盾、杜撰な準備を見る限り、思考能力の低下は否定できないところであろう。

20万という少ない動員兵力を分散したため、戦線がひろく薄くなり、キーウ(キエフ)はおろかハルキウ(ハリコフ)も攻略できていない。東部ドンバスとクリミアを結ぶ黒海沿岸に位置するマリウポリすら、包囲しながら依然として攻略のメドはたっていない。
長くなるので今回は省くが、ロシア軍の編成、能力というのは、そもそもウクライナの諸都市を制圧できるものではないのである。唯一、可能性があるとすれば、ゼレンスキー大統領の逃亡(亡命)であった。しかしその機会はやって来ないだろう。

プーチン氏の衰えた理性でも、軍事的にウクライナを制圧できない事を理解しつつあるのかもしれない。度重なるフランス大統領との長時間に及ぶ電話会談は”落としどころ”を探っている事を表している。理想の殉教者であれば交渉にならないが、とどのつまり”欲望”、”損得”であれば、わずかな光はある。

しかしプーチン氏は交渉で少しでも優位に立つため、軍事行動は止めないだろう。攻撃目標は民間人にシフトし、残忍性が高まっている。
実のところロシア地上軍は編成上、守備を固めた大都市を攻略するに十分な装備や訓練は無い。ゆえにほかの手段、クラスター爆弾、散布地雷、など、一般市民にも多く被害をもたらす戦術を使用し始めている。さらには化学兵器の使用も噂されている。原子力発電所の占拠も懸念事項である。

ウクライナの懸命の防戦と犠牲を無駄にしないためには、各国首脳の結束したリーダーシップが期待されるところであるが...........現在のところ、戦況はともかく、プーチン氏から交渉の主導権を奪回するには至っていないようである。

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ウクライナ・ロシア戦争に思う (2)

週末は金剛山から大和葛城山に登った。この日の大和葛城山の山頂は、覆っていた雪が融けてススキの枯草が露出し、どことなくウクライナの国旗に似たような景観である。

その前の週は雪で覆われていた山頂も、この日はいくぶん気温があがり、凍結した地面が泥濘に代わっていた。
積もった雪があると、ロープウェイで登ってきてそり遊びをする子供連れの家族などもみられるのであるが、雪が融けて泥沼になると訪れる人もほとんどいない。登山道もぬかるんで登山靴も汚れるから、わかっている人は登らないのだろう。我ながら物好きである。

現在もウクライナの首都キーウ(ロシア語キエフ)は陥落せず、戦闘は継続している。ウクライナとロシアの交渉が始まっているというが、ロシア軍によるウクライナ都市への砲爆撃と戦闘は継続し、ウクライナ市民にも多くの死傷者が出ている。

開戦直後、当初多くのメディアが、短期間にキーウが陥落するだろう、という予測を立てていた。

「首都キーウ、ロシア軍の攻撃で数時間内に陥落も−西側情報当局」
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-02-24/R7TOCST0AFBB01
「キーウ陥落は数日以内(米当局者)」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/02/post-98156.php

アメリカ国防省の予想すら、当初はこの通りである。
ロシア軍がキーウを強襲し、短期決戦を想定した作戦を立てていたことは確からしく、アメリカ国防省の予測もあるいはその情報に基づいていたかもしれない。
個人的には、むしろロシア軍はキーウを強襲するという事は無いだろう、と考えていた......開戦翌日の投稿に書いたように、キーウ方面のロシア軍の兵力が、どう見積もってもキーウの攻略には少な過ぎるのである。

アメリカ国防省の予想の通り、非常に短期間にロシア軍が勝利する可能性があったとすれば、ウクライナ共和国・ゼレンスキー大統領が亡命するか、捕らえられるか、あるいは暗殺されるか、しかなかっただろう。
事実、ゼレンスキー大統領の談話で、アメリカから亡命の提案を受けたが、これを拒否したという。またロシア軍によって誘拐される可能性があったことも述べている。プーチン氏は、開戦前にウクライナ政府要人の”処刑者リスト”の用意があると述べ、その筆頭にはゼレンスキー大統領の名があった。

ロシア軍はキーウを強襲することで、恐怖に駆られたゼレンスキー大統領が逃亡するか、ロシア軍特殊部隊によって誘拐に成功するか、あるいは抵抗のすえに殺害されてしまう可能性を考えていたのではないか?
仮にゼレンスキー大統領が亡命しても、キーウは抵抗を継続したかもしれない。しかしプーチン氏はウクライナ領内のどこかで”ウクライナ新政府”を樹立し、事実上の勝利宣言を行い、抵抗を続けるウクライナ軍を「反乱軍」として討伐することが出来ただろう。プーチン氏の事実上の勝利である。

(そういった意味では、アメリカの亡命提案はプーチン氏をアシストしようとしたことになる)

それがゼレンスキー大統領が亡命を拒否し、24日〜25日にかけての、少数部隊によるキーウ強襲も撃退された。ウクライナ軍服や警察、警備員、あるいは市民にまぎれた工作員も多数潜入していたようであるが、多くは逮捕され、大統領の暗殺や誘拐のような手段も封じられたようである。

また、時間の経過とともに、ロシア軍の士気は予想以上に低く、補給物資も前線に充分に行き渡っていない事が明らかになっている。
Twitterのウクライナ語の記事を(自動翻訳で)読んでいると、数多くの戦車や装甲車、軍用トラックが炎上している画像や動画がみられる。3月1日の時点のウクライナ軍の発表に拠れば、ロシア軍は1400両の軍用車輛(戦車・装甲車・他)と5710名を失ったという。目を疑うような損害である。

「Ukraine destroys 198 Russian tanks, 29 helicopters; kills 5,710 soldiers」
https://www.theweek.in/news/world/2022/03/01/ukraine-destroys-198-russian-tanks-29-helicopters-kills-5710-soldiers.html

またロシア兵が遺棄した車両や、装備を捨てて徒歩で移動するロシア兵、食糧を求めて商店を略奪する姿の動画などがみられる。

むろん、こうした投稿や報道内容というのは、ウクライナ軍による情報工作、という可能性もあるだろう。しかし24日から25日の時点ですでに、食糧を求めてキーウ郊外の農村に入り込むロシア兵や、脱ぎ捨てられたロシア軍服、空っぽの車輛、捕虜の証言、さらには現実の戦闘の進捗を見る限り、総じてロシア軍の士気は元から高いものでなかった、という事がうかがえる。

そもそもロシア人の多くがウクライナ人から多年にわたる差別や圧迫、搾取を受けていたというような(ウクライナ人の優越意識は確かにあるというが)積年の恨みがあるという話は聞かない。ウクライナのGDPはロシアの10分の1に過ぎず、一人当たりGDPでもロシアのそれの4割程度である。美しいが経済的には”貧しい小国”であり、軍事的にも決して強国ではない。それがNATOに加盟するにせよ、少なくとも一般のロシア人が、敵愾心を抱く相手ではない。


ところでアメリカ国防省の当初の予想は、ロシア軍の意図とも一致していたようである。あるいはアメリカ政府は、事前に作戦計画を察知していた可能性もある。

報道によればロシア国営通信の掲載予定の記事がリークされ、ロシア軍は48時間でキーウを陥落する作戦を立て、「勝利記事」を用意していたという。

ロシア国営通信が「勝利記事」の予定稿を誤送信
https://courrier.jp/columns/280659/
ロシア語は読めないので、以下の(素晴らしい)翻訳を読んだのだが、

露国営通信記事全訳「ロシアは歴史的完全性を回復する」
https://buu245.blog.fc2.com/blog-entry-160.html?sp

ここでは記事内容の詳細には触れないが、ご興味ある方はご一読を。
ともあれ、もしロシア連邦大統領、ウラジミール・プーチン氏がこの記事に書かれているような、いわば「大ロシア主義」とでもいうべきロマンに浸っているのであれば、早期の戦争終結の希望は薄いであろう.....欲得ならどこかで手を打つものであるが、イデオロギーで戦争を始める者につける薬はないのである。思えばウクライナとの開戦前のプーチン氏の夢想家のような発言、

プーチン氏、ウクライナは「私の美しきもの」
https://www.afpbb.com/articles/-/3389198

これもリークされた記事の内容に照らすと腑に落ちる。また開戦前、フランスのマクロン大統領と何度も会談を重ねていたが、

「プーチン氏、2年で態度に変化 よりかたくなに 仏大統領」
https://www.cnn.co.jp/world/35183985.html

とある。これにも少し奇異な印象を覚えたものであるが、プーチン氏が”復古主義”の夢想に憑りつかれ、為政者としての理性を喪失しつつあるとすれば、マクロン大統領の大きな徒労感がそれを裏付けている。

おそらくクリミアに執着し、キーウに固執するのは、もはや政治的・経済的理由ではなく、畢竟、プーチン氏のロマンチシズムなのかもしれない。類似の例は第二次大戦における『大ドイツ主義』や『大東和共栄圏』に観る事が出来るだろう。
ゆえにこの戦いは”米ソ冷戦時代の遺物”が根本ではなく、それよりも古い時代の、プーチン氏自身が生まれるはるか前の”帝政ロシア時代”ないし(クリミアへの執着を生む)”ロマノフ家の栄光”への郷愁と、そこへ立ち戻る事を阻む”西側勢力”への憎悪が根差している、とも考えられる。その場合、経済・政治に戦争の理由を求めるのは、もはやナンセンスである。

いうなれば中世の甲冑をまとい、槍を振り上げて風車に向かって突進する”中世騎士物語”に浸った老人の姿、とでもいうべきか。しかし”ドン・キホーテ”は無力だが、これが膨大な軍事力をもつ国家の支配者であるとすれば、まさに人類史的な災害である。しかしその例を、我々は近代史に例を採ることが出来るであろう。
当然であるが、このような”ロシア夢”は、ロシア軍のほとんどの将兵、とくに若い兵士が共感し、そのために生命を捧げられるような理由ではないだろう。

プーチン氏の脳裏を支配するイデオロギーは”大ロシア主義”ないし”帝政復古主義”とでもいうべきか。そういった思想が存在する事自体は認めなければならないのであろうが、一国の元首がそれに染まり、現実を見失うとすればどうであろう?これが一般人であれば、わかる者同士のつどいで語りあうなりすればいいであろう。程度がひどければ、しかるべき場所で何らかの治療を受けるべき案件かもしれない。

ともあれリークされた記事の内容が事実であり、プーチン氏の開戦動機を正しく表現しているであれば、非常に暗澹たる気持ちにならざるを得ない。

現在、ゼレンスキー大統領等、ウクライナの代表団とロシア側代表団が話し合いにはいり、合意に至らないものの協議の継続は約束されている。しかしそれが”無駄な努力”という事を意味しているからだ。
もし、プーチン氏に理性、つまり”そろばん”をはじく思考が残っているのであれば、失敗が明らかになりつつある戦況を前に、政権の存続と自身の保身を図り、ウクライナ側と妥協点を探るだろう。最悪でも亡命の確約はしたい。しかし”大ロシア主義”という、途方もない虚妄に取りつかれているのであれば”All or nothing”なのである。このような人物を相手に、交渉は無意味なのである。

交渉中にもかかわらず、ロシア軍はウクライナの都市を砲爆撃し、市民に多数の死傷者が出ている。こうした行為も、極めて卑劣ではあるが、ゼレンスキー大統領を焦らせ、少しでも交渉を優位にしようとする、いうなれば交渉術である......と考えてしまいそうだ。が、核心はそうではなく、おそらくプーチン氏は戦争を止める気がまったく無い、という事を意味しているのだろう。すくなくとも”ウクライナ”を手に入れるまでは。
ゆえにウクライナ側の条件内容は流れてくるが、ロシア側のそれは不明確である。停戦交渉のロシア側代表団にプーチン氏の姿は無く、軍関係者はひとりもいないという。停戦交渉の場は、ロシア側にとって単なる時間稼ぎですらなく、軍事行動とはおそらく関係のないひとつの事象に過ぎないかもしれない。

目下、プーチン氏の政治的立場は危険である。独裁者あるいは独裁体制は、国民の支持を失っても倒れないが、軍事的失敗により軍の支持を失えば滅びざる得ない。アフガニスタンから撤退してソ連邦が崩壊したように、もしウクライナからロシア軍が撤退する事があれば、プーチン体制は崩壊するだろう。しかしながら、プーチン氏の脳裏には、自らの保身を計算する思考ももはや無いのかもしれない。なぜなら軍の首脳が健全に機能していれば、ロシア軍の当初の作戦失敗は明らかで、かつ挽回は非常に困難、という事がわかるはずだからだ。

現在、極東から陸続とロシア軍の増援が送られているという。それは当初ウクライナに配備されていたロシア軍の戦力が枯渇しつつあることを意味している。しかし古来、士気が低く、補給に難を抱えた軍隊が、住民が武器をとる大都市を攻略出来た例は無い。ゼレンスキー大統領、ウクライナ政府が放棄しない限り、キーウが陥落することは無いだろう。しかしロシア軍の戦力が枯渇するか軍隊が反抗するなどして、物理的に戦争継続が不可能になるまで戦争は続くと考えられる。

初期の”キーウ強襲作戦”の無謀さ、杜撰さと、その後の拙劣な作戦を見る限り、プーチン氏側近の軍事の専門家たちは思考が硬直し、官僚的な義務感と保身によってプーチン氏に従っているのであろう。もっとも、もはや諫言しても意味のない状況ではあろうけれど。

(このような軍首脳部も、やはり近代史に”既視”する事が出来る。)

ひとつ希望があるとすれば、春に近づき、ウクライナの気温が上昇してきた事である。広大な湿地帯に覆われたウクライナの大地は、冬季に固く凍結する。それがゆるみ、泥濘に覆われるようになれば、重い軍用車両の移動は緩慢にならざるを得ない。事実、ぬかるみに深く車輪をうずめて停止しているロシア軍の車輛もみられるようになった。主要な幹線道路は重い戦車の重量に耐えられるようであるが、郊外の農村などは道路が舗装されていないところも多いのである。かつてナポレオンが苦しみ、ヒトラーを阻んだのは”冬将軍”だけではなく、暖かい時期の行動の困難でもある。

プーチン氏が自身の政治生命、あるいは生命すら考慮していないとすれば、経済制裁によってロシア経済が破綻しても、動かせる兵力があるうちは戦闘を続けようとするだろう....そして戦争の続く限り、軍民ともに犠牲を積み重ねるだろう......何らかの手段を講じてプーチン氏を逮捕する以外に、短期的に戦争を終息させることは難しいかもしれない。
秘密裏にロシア側からゼレンスキー大統領にプーチン氏の拘束を協力する申し出があり、それに動いている可能性はないか.......あるいは側近の造反か、大規模な軍のサボタージュか.....。

しかしプーチン氏が為政者として正常な判断が出来る、という前提でこれ以上交渉を重ねるのはおそらく無意味であり、軍の攻撃が止まない以上、犠牲者はさらに増えるだろう.......重い気持ちにならざるを得ない。

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ロシア・ウクライナ戦争に思う

戦争が始まった。非常に気の重い出来事であるが、同時代人としてよく見ておかなければならないだろう。目下戦局は予断は許さないところである。ただ、これはあくまで私見だが、ロシア連邦の大統領、ウラジーミル・プーチン氏が、当初思い描いていたような軍事的・政治的成功を早期に収めるのは簡単ではないだろう。
開戦前後のプーチン氏の言動はあたかも夢想家のようで「あの冷徹な現実主義者がなぜ?」というような疑問がある。

情報によれば展開するロシア軍は20万人。東部に親ロシア派武装勢力も存在するが、せいぜい数万といったところだろう。対するウクライナ軍は正規軍20万人。加えてここ10年以内に退役した予備役が20万人。予備役は最大90万人が動員可能で、合わせて110万人。武器を操作できる人員がこれだけいる。

ウクライナ軍の戦闘機や戦車は大半がソ連時代のもので、これら正面装備は質・量ともにロシア軍が圧倒している。しかし西側諸国(NATO軍)からウクライナ軍へ、歩兵が携行出来る対戦車兵器や、対空ミサイルが多数供給されており、すでに訓練も受けている。こうした兵器によるロシア軍側の損害も確認されている。

ウクライナはNATOにいまだ加盟できていないため、NATOに防衛義務はなく、ウクライナへNATO軍の派遣はない。しかしウクライナ西方のルーマニアなどから西側の兵器の供給は続いているとみられ、今後の戦局はこうした西側兵器のウクライナへの十分な供給が継続できるか?がひとつのポイントになるだろう。

またロシア各地、モスクワを始め主要都市では開戦初日から大規模な反戦運動が巻き起こり、政府への抗議行動としてはプーチン政権始まって以来の規模に及んでいる。多くのロシア人にとっても、ウクライナに敵愾心などないであろうし、友人知人、親戚も多い。黒海沿岸やウクライナ各地はロシア人にとっても、人気の観光地でもある。まさかロシア軍はウクライナを攻撃はしないだろう、いやしてほしくない、という気持ちがもっとも強かったのは、あるいはロシアの人々かもしれない。
こうした空気というは、おそらくロシア軍の将兵にも及んでいるであろう。対するウクライナ軍は祖国防衛を決意し、戦意は非常に高いとみられる。

プーチン氏は第二次チェチェン紛争で派兵し、現地勢力を支援しながらチェチェン独立派を排除することに成功している。しかし当時のロシア軍はチェチェンに対して激しい絨毯爆撃とミサイル攻撃を加え、民間人にも多大な犠牲者を出し、それでも地上戦でロシア軍は少なくない損害を出している。
今回のウクライナ侵攻に際しては、治安維持、民間人保護が大義名分であるから、空爆やミサイルの目標は軍事施設に限るという建前だ。当然、偽装・隠蔽された軍事施設や装備にまでは破壊が及ばないであろう。

ロシア軍は東部、クリミア半島を含む南部、またキエフ北方のベラルーシの三方向から侵攻しているとみられるが、20万人の兵力を三分割しているとすれば、一方面に数万づつに過ぎない。
圧倒的な空軍力で制空権を握り、最新の戦車や装甲車を大量に投入したとしても、祖国防衛に燃える軍民を相手に地上戦で勝ち切れるとは限らないことは、まさに20世紀のロシアの近代史が教えるところである。

しかし優勢な装備を誇る侵略者相手に勝利するためには、防衛側は凄惨な戦闘を経て大きな犠牲を払う必要がある。プーチン氏は当初の目的を達するにせよ、しないにせよ、ウクライナの美しい街々を瓦礫の山に変え、ロシア・ウクライナ双方に多大な犠牲者を生む事を望んでいるのであろうか?

プーチン氏も今や69歳である。鍛え上げられた頑健な肉体を誇示してきた同氏であるが、そのような人ほど、加齢による衰えを痛感するものである。2018年のデータでは、ロシア人男性の平均寿命は66歳であるという。飲酒も喫煙もしないというプーチン氏ではあるが、余命を意識せざる得ない年齢であろう。
肉体の衰えは、モノの考え方にも影響するものである。先日の氏の演説の要旨では、ソ連時代をも飛び越えて、ロシア帝政の時代に思いを馳せているかのようである。日本でいえば徳川時代への郷愁とでもいうべきか。当然、多くのロシア人、特に若い世代が理解・共感できる事ではないだろう。

この戦争の目的を達成したとしても、ロシアの民衆の支持は到底得られるものではなく、失敗すればプーチン氏の長い政治生活も、事実上の終焉を迎える可能性もある.....”ポスト・プーチン”と考えた時、そこに権力の空白が生まれるか、あるいはなりふり構わぬ権力維持に向かうのか。いずれにせよ、ロシア・欧州の今後は混沌として不透明を増してゆくと考えざるを得ない。

ともあれ今は、1日も早い戦争終結を願うばかりである。
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随州の桜

湖北省の随州市。封鎖が解かれる数日前の3月9日、まだ外出禁止が敷かれていたころである。深圳から帰省した朋友は両親と自身の息子、また妹の家族五人で実家マンションに閉じ込められていたのであるが、一階の並木に桜が咲いたという。いくら何でも早いのではないか?と思ったのであるが、送られてきた写真を見る限り確かにソメイヨシノが咲いている。
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随州は武漢から襄陽に至る、ちょうど中間に位置している地方都市である。夏暑く冬は雪が降るほど寒くなるが、考えてみれば鹿児島と同じ程度の緯度であるから日本の近畿関東などよりは桜の開花時期は早いだろう。
もっとも、この当時は自室の玄関から原則一歩も出られない厳しい制限が敷かれていたから、写真はベランダに出て眼下の桜を撮影している。せっかくの桜をまじかで見られないのが残念だ、とこぼしていたが、その四日後の3月13日には小区と呼ばれるマンションエリア内の敷地には出ることが可能になり、近くから撮影した桜の写真を送ってくれた。さらにその二日後の3月15日には外出禁止令が解かれたという。
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3月23日には江西省贛州からの医療応援隊を随州市民が沿道総出で見送ったのである。その写真を見て、せっかく感染拡大が収束したにもかかわらず、このように大勢で送別するのはどうであろう?と思ったのであるが、朋友曰く「大丈夫、沿道の人々はみなマスクを着けています。」という。拡大してよく見ると、なるほどマスクを着けていない人はない。外出禁止は解かれたが、マスクをつけなければならない規則は継続しているという事だ。
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ところでこの随州の朋友の妹は若くしてなかなかのやり手であり、工場における検査治具をつくる会社を経営している。その顧客のうちの一社に、医療用マスクを製造する工場があるという事だった。それで朋友姉妹は深圳から湖北省に帰省する際にもかなりの量のマスクを持ち帰っていたので、政府による配給に頼らずとも一家がマスク不足に陥ることはなかったという。

その朋友が10日ほど前の3月17日「マスクを買わないか?」と打診してきた。日本でもマスクをなかなか購入できなくなって久しいが、自分用の分はある程度は確保している。安徽の朋友に送ってくれと頼まれていて、EMSの混雑ならびに大陸中国のマスクの流通制限によって、結局送ることが出来ないままになってマスクもある。
ゆえに当面、個人的にはマスクが足りないという事はないのであるが、熱心に進められるので付き合い半分で購入することにした。値段を聞くと、1枚2.15元だという。朋友曰く、これは工場出荷価格なのだそうだ。
1元を15.5元で計算すると1枚33円ほどである。50枚入りのパッケージで1666円である。こういった箱入りのマスクは、コロナウイルスが蔓延する以前は、ドラッグストアで1箱498円で買えたものである。それが工場出荷価格の時点で3倍以上になっている。

ちょっとうがった見方をすれば、この朋友がいくらかマージンを乗せているとかキックバックをもらっていると考えるかもしれない。ただ今までの付き合い上、個人的に信じるところでは、そういう細かい商売はしない人物である。また私は別段マスクを商っている人間ではないから量を買うとも向こうは思っていない。別口では数万単位でオーダーを受けているという。むろん、この朋友も普段はマスクなど扱ってない。電子部品の商社を経営しているのであるが、今は臨時で工場からオファーがあるのだという。
しかしこんなに高いのはどういう事情かと行くと、原材料の不織繊がコロナウイルス流行以前は1トン2万元であったのが、ピークで60万元まで高騰したという。それが若干おちついて50万元になっている、という事だ。
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マスクをみると、口元を覆う部分は機械で製造されるのだろう。おそらくは耳にかける紐の部分が、熱圧着などで人の手がかけられているのであろう。なので製造原価のほとんどは材料費のはずであり、それが25倍〜30倍まで高騰してしまうと、単価の上昇もやむを得ないのかもしれない。
朋友は何やら大量に購入して欲しいようで「最大で何枚買えますか?」と聞くのであるが、以前の3倍の値段のものを大量にさばく自信はないし、周辺で会社や工場を経営している人に聞いても当面間に合っている、という事である。何枚くらい買えるのか?と聞くと「60万枚。」という。さすがにそんなに買っても仕方がないので、最低ロットの2,000枚を付き合いで買う事にした。50枚入りのパッケージで40箱が、ちょうど段ボール一箱分である。

少しインターネットで値段を調べてみると、在庫があるとは限らないが、似たようなマスクが日本では安いところで2000円を切るくらいで販売している。こういったところは直接仕入れて薄利多売で売っているのだろう。他に4000円近い販売価格のところもあるが、工場出荷価格を考えれば、通常の卸しから小売りルートに載せれば、それくらいの値段になってしまうのだろう。

一応、”BFE99%以上”というのは、性能的には病院で普通に使えるレベルのマスクなのだそうだ。ちなみに感染患者と直接接するにはN95という規格が必要であるし、外科手術用のマスクはまた別であるという。要は一般病棟で使えるレベル、ということだろう。
しかし日本は医療用のマスクとして輸入する場合はPDMAという認証資格を持っていないと輸入は出来ない。むろん、そんな資格は持っていない。だから単にBFE99%とだけ書いた箱に詰めて送られ来るのである。
ちなみにアメリカに医療用のマスクとして輸出する場合は工場がFDA認証を持っていなければならない。輸出する国の医療関係の法律によってさまざまな規制や認証があるのだという。
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届いたマスクの品質や使用感を見る限り、使い捨てマスクとしては特に問題はなさそうである。そこで昨日、追加で買えるか?と聞いたのであるが「買える事は買えるが、価格は3.2元になった。」という。わずか一週間で五割増しのアップである。1個50円を超えるのはさすがに高い。50枚入りのパッケージで2500円を越えるのである。
しかしこの原因は言うまでもなくこの一週間で欧州とアメリカで感染患者が激増したことにある。すでにマスクは各国で奪い合いの情況で、特に医療用のN95規格のマスクはお金があっても買うことが出来ないのだという。
察するに3月17日時点で大量に購入を打診してきたときは、武漢を除く湖北省のほとんどの地域で封鎖が解かれ、一時的にマスクの需要が低減したのであろう。それがその後1週間に満たない間にアメリカやヨーロッパの情勢の急激な悪化で再び切迫した状況に変換した、と考えられる。
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幾分うがった見方をすれば、世界規模のでのコロナウイルスとの戦いの中で、今やマスクを初めとする医療用品や医療器材は第二次世界大戦における武器弾薬と同じであり、戦略物資でもある。
大陸中国では生産などの経済活動が徐々に回復しているとはいえ、厳しい封鎖が経済に与えるダメージは日に日に明らかになってゆくであろう。また欧州やアメリカなどの主要な市場が封鎖され、世界的に経済活動が劇的に鈍化している中で、通常の工業製品の需要は大幅に落ち込んでいるであろう。非公式の統計では失業率は6%を超えているという。
マスクの製造作業は原材料の不織繊さえあれば簡単なものであるから、工員を募集し、急速に製造ラインを増やすことも可能であろう。マスクの製造は、ひとつには雇用対策、ひとつには外貨獲得のための重点国策産業になっていると考えられる。
中国が武漢をはじめ大陸全土を封鎖していた期間、製造されるマスクはほぼすべて中国政府が買い上げ、必要な現場へ配給されていたのである。これはまさに社会主義的な統制経済の在り方である。それが大陸の封鎖が解かれ、海外へ輸出する段になるや、市場原理による原材料の価格高騰が直接反映されているのにはいささか閉口したくなる。

背後の事情はともかく、現場によって必要なものは必要なのであるから、これらマスクも必要な場所へ行き渡ることが望まれる。
日本は現在、欧州やアメリカからの帰国者に由来する感染の第二波の中にある。東京をはじめ、大都市に限らず「不要不急の外出」は自粛することが望まれる。せっかくの桜の季節ではあるが、西日本はあいにくの天候なのは「天の声」であろうか。
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感染拡大の第二波

........三月中旬あたりから香港における感染者数が急激に増加傾向を見せていた。
(騰訊新聞「新型冠状病毒肺炎・疫情実時追跡」) 三月中旬までは入院患者数が50〜60人で推移していたのがわずか一週間の間に280人にまで増えている。香港の友人に確認したところ「海外、とくにアメリカやヨーロッパから帰国した人の中で感染が確認された人が多い。」とのことである。
湖北省を別格とすると、現在の大陸における感染患者数ではいつのまにか香港が2位につけている。次いで、北京、上海と続く。北京や上海にしても、おそらくは香港と同じように海外との往来の人数の多さが影響しているのではないだろうか。
というような事をさっきまで書いていたら、東京でも本日3月25日に一日では最多の40人の感染が確認されたという。この件について小池都知事が20時から緊急記者会見を開くということだ。
おそらくは東京も香港と同じで、欧米からの帰国者の増加による感染者数の増加が要因ではないだろうか。
(新型コロナウイルス感染症患者の発生状況 厚生労働省) 2月から増加していった日本における感染者数は、クルーズ船の乗客の感染者を別にすると、3月中旬から収束傾向すら見せていた。この2月に入ってから今までの感染患者の増加は、言うまでもなく春節前後での大陸との往来に由来すると考えられる。
そして今回の感染者の増加は、いうなれば海外からの”第二波”で、感染が拡大するヨーロッパ、アメリカ、そのほかの世界各地からの帰国者に由来すると考えられる。

桜の開花が例年より早い今年であるが、日に日に気温があがり、日照時間も長くなり、紫外線量も増加している。これはウイルスにとっては環境が厳しくなってゆく事を意味しているが、油断は出来ないだろう。
感染はウイルス集合の中でも感染力の強いウイルスが感染してゆくわけで、いうなれば繁殖力の強い個体が増えるという事であるから、武漢で爆発したころよりも強い感染力を持つ可能性もある。

しかし個人レベルでは、風邪やインフルエンザの感染予防以上のことはできるわけではなく、それを念入りにやるしかない。しかしこのいわば全国民的な予防行動の徹底が、今や世界でも稀な感染の抑制を見せていたことも事実である。

新型肺炎の死亡率を低く抑えるのは病院など医師看護士医療機関、医療機器の仕事である。しかし感染症拡大の抑制は公衆衛生環境、衛生習慣の役割が大きい。生活様式に根差す衛生習慣は、その国固有の歴史、文化と不可分である。
”衛生観念”というが、衛生は観念に根差しているところがある。古代人はウイルスや細菌が目に見えたわけではない。しかし「ケガレ・ハライ・キヨメ」といった、日本古来の衛生観念が、やはりコロナウイルスの拡大を防ぐうえで力を発揮しているのではないだろうか?逆に考えると、古代の日本は疫病の流行に繰り返し悩まされてきた、という事でもあるだろう。それは史料に上る以上の被害を古代の日本社会にもたらし、それを防ぐための衛生習慣が、食器を共用しないなどの良くも悪くも「人と人との距離が遠い」日本人の生活文化、行動様式を生み出した、という事も考えたくなる。
古事記にある、黄泉の国にイザナギノミコトが下りて行った伝説も”愛しい者であっても死者は遠ざけねばならない”という事を教訓として知らしめているのかもしれない。

ともあれ、皆様におかれましても、今後も充分にご注意願いたい次第。
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随州告急

騰訊新聞「新型冠状病毒肺炎・疫情実時追跡」で、一応は公式発表としての新型肺炎の感染情報が閲覧できる。

これによると2月7日現在、中国全土で感染が確認された患者数が前日から3163人増えて「31223人」感染が疑われる疑似病例が前日から4833人増えて「26359人」、治癒した患者が「1586人」、死亡者が「637人」となっている。まさに今世紀に限って言えば、未曾有の事態であるといえるだろう。
先月25日に「武漢封城」を掲載した際には、現場の医療関係者と思われる人々の間で交わされたと思われる、1月22日のタイムスタンプのついたSNSの発信情報を参照した。その会話内容では感染者は政府発表(当時400人)よりも二桁多い「四万人」と推定されていた。
感染が確定した患者数だけでも、おそらくはその時点での推定を上回るのは必至の情勢である。

湖北省、特に感染源とされる武漢市の状況はおそらく他の地域とは比較にならない事態にあると考えられる。武漢現地は病院も医師も看護士も足りないどころか、マスクや防護服などの医療用品の供給も不足し、したがって診断も治療も追い付いていない。
ゆえに感染者の総数について明らかになるまでは相当な時間を要すると考えられるのだが、かなり控えめな推測でも武漢市だけで少なくとも10万人、多くは25万人の感染者が存在する、という声がある。
新型肺炎による死者も正確にはカウントできていない。死者数に関する規模感は、後に武漢市の人口統計から推測するしかないのではないだろうか。
先日「随州封城」を掲載した時点で、深圳在住の朋友等が帰省した湖北省随州市には30名程度の感染者が発見されていたが、2月7日現在は915人にのぼり、死者は9人を数えている。
湖北省全体の統計でみると、感染患者数が11618人の武漢市、2141人の孝感市、1897人の黄岡市についで、随州の915人は四番目に多い。武漢市は別格としても、2番目に感染者の多い孝感市の人口は490万人、3番目の黄岡市は人口630万人に対して、随州は人口220万人である。行政区としては湖北省に12ある「地級市」の中では随州はもっとも人口が少ないのであるが、その随州の患者数は四番目に多く、すなわち武漢に次いで多い感染率である。
無論、湖北省における各都市各地域に感染者が多く分布するのは、武漢市内から帰省した人々が湖北省内に分散したためである。先日の武漢市長の発表では、武漢市内に900万人が残留し、500万人が武漢市内を出た、という事である。この500万人のうちの大半は湖北省の各地域に帰省し、さらにすくなからぬ人数が大陸全土、あるいは海外にまで分散したと考えられる。
残留者900万人にたいして武漢から離脱した人数が500万とすると、併せて1400万人である。武漢の戸籍人口は1000万、住民は1200万であるから、200万人は短期滞在者や武漢市を出入りした延べ人数の事であろう。武漢が交通の要衝たるゆえんであろう。
今年の旧正月は1月25日からであるから、武漢や随州が「封城」された時点では旧暦における「大晦日」であり、家族親戚そろって年越しの晩餐を過ごすのが習慣である。その晩餐の席で武漢市から帰省した者からの二次感染もあったであろう。そもそも、ほぼ帰省の大移動が終わってからの交通封鎖は遅きに失していた感は免れない。
あるいは圧倒的に病院の足りない武漢の状況を考えると、あえて帰省を許して感染者を分散させたのか?という疑念も残る。もし大多数が離れる前に武漢を封鎖していれば、武漢は今現在以上に過酷な状況になったのかもしれない。
大陸では1月の初めからがいわゆる年の瀬であり、忘年会等の行事も行われ、また年越しの買い物で各地の市場はごった返す。いうなれば年末のアメ横のような光景が武漢の市場や商店でみられたのであり、また大陸の宴会はたいていは個室の円卓を囲んで行われる。酒宴の後は個室のカラオケである。およそ大陸中国人であれば常識的にわかっている状況が見えていたにも関わらず、武漢市や中国政府当局の初期の対応はあまりにも疎漏に過ぎたといわざるを得ない。

大陸は旧正月には「拝年」という、各家庭を互いに訪問する年始参りの習慣があるが、今年は全国的に自粛されている。しかしあえて厳しい言い方をすれば「手遅れ」だったのではないだろうか。
確認される感染者が31253人、そのうち湖北省が22112人とすると、9000人程度が湖北省以外の地域に分散していることになる。しかし死者の総数637人のうち、湖北省だけで618人である。すなわち湖北省以外の地域での1万人あまりの感染者の間での死亡率はさほど高いものではない。湖北省以外の地域では患者数に対して医療機関の物量人員がまだ対応可能であり、適切な治療によって死亡率が低く抑えられているのであろう。
治癒者の総数は1640人であるが、湖北省全体の治癒者は840人である。およそ三分の二の患者を抱える湖北省の治癒者が全体の半数に過ぎないという事は、やはり湖北省の医療設備や人員、物資が不足しているという事を意味しているだろう。
もっともこれは公式発表を信じたうえでの推測である。おそらく、武漢市以外の地域の数値に関しては、ある程度の信頼を置いてもよいのではないだろうか。しかし武漢市に限って言えば感染患者の総数や志望者は依然不明確であり、現実の実際とはおそらくは桁を外れた差異があることが予想されるのである。

随州に話を戻すと、朋友の話では幸い随州は郊外に農村が多く、食糧品の供給には事欠かないという。しかし外出は厳格に制限される。大陸のマンション群はたいていは「小区」というエリアに区分されているのであるが、「小区」の入り口で保安要員に体温をチェックされ、発熱していないことが確認されてから初めて出入りできるのである。これはショッピングセンターやスーパーマーケットの入り口でも同じ措置が取られるのだという。
今のところ幸いに朋友家族に感染者は出ていないが、同じ「小区」から1名の感染患者が出たという事である。しかしその家族にはまだ感染者が確認されていないという事だ。

前述したように、随州は人口比で武漢に次ぐ感染患者が確認されており、すでに医療機関のキャパシティを超えそうな勢いであるという。随州市には「湖北省随州中心医院」が唯一の「国家三級甲等総合病院(最高格付けの総合病院)」であり、この病院が新型肺炎に対応する指定病院となっている。
現在中国各地から陸続と応援の医師看護士が湖北省に向かっているが、当然のことながら大半は武漢に集中して投入され、随州にはわずかに内蒙古から四名の医師が派遣されただけであるという。医療物資も不足し、現場では緊迫した状況が続いているという。

随州ではないが、大陸のほかの地域もほぼ交通が規制された状況にある。たびたび訪れている黄山市の朋友からも、マスクを送ってほしいという連絡が来た。安徽省は全体で665人の感染患者が確認されており、うち黄山市では9名の患者がいるという。湖北省の状況に比べればまだしもであるが、マスクなどの医療品は払底している。そこで少量ではあるが確保したマスクをEMSで送ろうと郵便局に行ったのであるが郵便局員さんが言うには「現在関空はマスクなどの荷物が多すぎて大渋滞中なので、しばらくしてから送った方が良い。」という事である。
ひとつには大陸中国では各企業が新型肺炎の蔓延をうけて春節明けの操業開始を2月9日から10日に延長しているため、物流、輸送も滞っているという事情もあるだろう。日本から中国側に届いても、中国側でもさばき切れていない可能性がある。また中国側通関をパスしても、その後の輸送がどうなるかはまったく不透明だ。
先日、京都の旅行会社につとめる友人から聞いたところでは、個々人が日本から送ったマスクも中国側ですべて強制的に開封、没収されて政府当局によって管理されている、という話である。ゆえに個人的な支援は届く見込みがない、ということだ。それほど大陸中国では医療品の欠乏が切迫している。

大陸中国の報道では、中国でのマスクの年間生産量は50億個であるという。日本の年間生産量を調べたら2018年の時点で55億個、というデータがすぐに見つかった。という事は日本のマスクの年間生産量と中国のそれがほぼ同じ、という事になる。日本でマスクの生産量ないし消費量が多いのは、花粉症の需要も相当量あるからだろう。
しかし日本のメーカーでも中国でマスクを委託生産しているところもあるから、中国の総生産のうち、どれほどが本来中国国内の需要分なのだろうか。なんにせよ、仮に10億人が毎日マスクを1個使い捨てにしていたら、10日で日本と中国の年間生産量のマスクが消費されてしまうことになる。それは仮定の話であるが、現実に大陸中国の最前線の医療機関でも防護服はおろかマスクが欠乏しているのである。本来は日本のメーカーが中国の工場に生産を委託していた分も中国政府の要請で中国国内向けに回されている。また日本の国産マスク工場は24時間フル稼働でマスクを量産しているという。それでも目下、大陸、特に湖北省や武漢では充足しているという話は聞かない。

そういう意味ではやっと入手して黄山市の朋友に送ろうとしていたわずかばかりの”DS2”規格の日本製マスクも、随州なりの大陸の医療機関で日夜苦闘を続ける医師や看護師に送りたい気持ちもあるのだが、確実に届く手段が今のところは見えない。
日本の薬局、ドラッグストア、コンビニからもマスクが消えた。もっとも新型肺炎の予防にはマスクよりも手洗いうがいが有効であるという。それはそうだろう。
日本ではまずしないが、大陸の生活習慣上の懸念としては、外履きのまま部屋にあがるというものがある。これも現在は外履きの靴は屋外に置くことが推奨されている。

日本の感染状況も予断を許さないものがあるが、今世紀に入って未曾有の大災害である。初動の問題など多分に人災の面が否定できないが、災害の規模でいえば2008年の四川省汶川の大震災に匹敵するものがある。日本は日本で国内での感染拡大を厳格に予防しつつ、余力があれば大陸中国、特に武漢市や湖北省への支援も行ってゆかなければならないだろう。早期に収束しなければ、中国のみならず東アジアと世界経済にもすくなからぬ影響が出るのは確実である。
そしてもし要路にあたる方がこの拙文をお読みいただいたのであれば、湖北省の随州という街の事も、気にかけていただければ幸いである。
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随州封城

......先に「武漢封城」を掲載した翌日、やはり懸念した通り随州も「封城」されてしまった。これで湖北省南部の過半が「封城」されたことになる。交通封鎖は湖北省に限ったことではなく、上海や北京、天津といった都市でも徐々に移動が制限され始めている。
浙江省温州のとある小さな村に帰省した知人がいるのだが、人口千人程度の小さな村も「封村」されたという事だ。もっともこれは感染者の流入を防ぎたい村人が自発的に行っている行動のようで、町から村に通じる道路を閉鎖し、検問のようなことを行っているということである。このような動きはおそらく大陸全土に及んでいるのであろう。

懸念されるのは感染の拡大もそうであるが、経済への直接的な影響である。春節後の中国経済は、少なからぬ混乱を呈するのは必至である。今や全国的に人の移動が制限されているのであるから、仕事どころではない。すでに海外旅行への団体旅行は当然のことながら、国内旅行も禁止されている。旅行業、宿泊業から小売、飲食にとどまらず広範な経済活動に影響するだろう。
SARSの際は香港の不動産は70%暴落した。普通に考えれば春節後に武漢を中心に湖北省一帯の不動産は暴落、余波は全国に広がるだろう。放置した場合に銀行が連鎖倒産するなどの金融危機は不可避である。金融危機を防ぐために強い資本規制、すなわち預金の引き出し制限や送金の制限などが実施される可能性が高い。
あるいは不動産の売買そのものを停止する可能性もある。今日現在で春節の休暇が2月2日まで延長されている。Uターンによる人の移動を抑制すると同時に、株式や不動産など、あらゆる”市場”の再開を延期させる措置ではないかと思われる。

自身はその道の専門家ではない、という事を断ったうえであるが、今後患者数の増加を注視しなければならないだろう。武漢市内で濃厚な接触をした人々の間での感染が感染経路の大半であり、「封城」後に二次感染が抑制されているとすれば、どこかで感染者の増加が頭打ちになるはずだ。現在の感染者の増加は感染が診断された患者数であり、医療機関側の検査体制が増強の状況に左右されるのである。とはいえ、感染力が増強しているという観測もあり、まったく予断は許さない。

武漢の医師はざっと3万人。また”官報”によれば北京からは一万人の医師が武漢に派遣され、また近く2万人の医師が全国から集められ、さらに武漢に向かうという。医師だけではなく、看護士の随伴も相当数に上るだろう。
以前に書いたが、武漢出身の作家である池莉の作品「不断愛情」は、医師の家庭に生まれ自身も医師になるエリートの男性と、下町”花楼街”に生まれた女性との恋愛・結婚がテーマである。武漢というと武漢大学医学部を筆頭に大学病院、病院、薬局が多く、医療の充実した都市として知られているのである。その武漢をしてベッドが足りない、医師も看護士も足りない、というのが現実なのである。
早い段階で武漢現地の医療機関関係者から漏れ出た情報では感染者は少なくとも4万人。現在では10万人の感染者の存在を肯定する声が高い。日本で報道されているような、武漢だけで数百人とか中国全土で2千人というようなオーダーの話ではない。

昨日26日付の武漢市長の声明によれば、武漢を離れた人の総数はおよそ500万人。900万人が残留しているという事である。武漢は戸籍人口1000万人、住人1200万人の都市であるが、一時滞在や春節前に通過した人の数の総数がそれくらいなのかもしれない。湖北省のみならず、大陸南西部における交通の要衝であるから、その数値はまったく誇張ではない。

湖北省随州に閉じ込められた朋友の話では、昨日今日は路上を走る車を多くみるという。自家用車を有する人々が脱出を図っているのではないか?ということである。こんな時は勧告される通り自宅でおとなしくして自身の感染を防ぎ、また感染の拡大を防ぐべきなのであるが、そうとは考えない向きも多い、という事なのだろう。先の温州の片田舎の「封村」も、そうした一部の人間の行動を受けての措置なのであろう。

随州の朋友には2歳の男の子がいるのだが、昨日から喉が痛いという。熱はまだ無いということだ。ただの風邪の初期症状なのかもしれないが、病院に行くこと自体が感染リスクを高める行為なので考え込んでいる。先日、随州市でも30名の感染疑いが確認されたが、いまや感染が確認された患者が30名を超えているのである。武漢から高速道路で2時間程度の距離にあり、武漢から帰省した人も多いのであるから感染者出ないわけにはいかない。今のところ「封城」が解除される見通しはない。

現在、日本で発見された感染者は武漢から来日した人に限られている。しかし潜伏期間が二週間と長いため、日本における二次感染の状況が見えてくるのは、早くとも2月上旬あたりなのかもしれない。武漢の人だけで10万人が日本への旅客申請をしていたという。中国政府は海外への団体旅行を禁止したが、個人の渡航がどこまで制限されているのかは不明である。ともあれしばらくは予断を許さない状況が続くだろう。
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