五亭吟春茶社のえびそば

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揚州滞在中の事。最近気に入って通っている、五亭吟春茶社の点心は欠かせない。揚州の茶店というと、三丁包のような饅頭もさることながら、麺料理にも特徴がある。ちなみに点心といえば軽い食事の事であり、麺類も点心に含まれるのである。しかし五亭吟春茶社の麺はかなりボリュームがあるので、食事として食べる場合は饅頭類と一緒では少し苦しい量である。なので麺を食べるか、包子の類にするかは、これはなかなか悩ましい問題なのだ。
今回は揚州を発つ最後の食事として、五亭吟春茶社の麺を食べようということになった。時刻は昼時である。今日中に上海に戻るのであるが、揚州から鎮江にタクシーで移動し、鎮江から高速鉄道で上海に戻るルートである。鎮江から午後三時時出発の高速鉄道のチケットはすでに入手してある。揚州から鎮江までは、およそ45分から1時間を見込めばよい。なので30分前に到着している事を想定すると、遅くとも午後1時半には揚州を発つ必要がある。

 

ところで高速鉄道のチケットはインターネットで予約、購入が可能であるが、駅の切符売場で身分証を呈示の上で”発券”してもらう必要がある。売り場の窓口が込み合っている事も多いから、並ぶ時間を見込んで少し早目に駅についている必要がある。ちなみに往復分を予約、購入しておけば、行きのチケットを発券してもらうときに、同時に帰りの分も発券してもらえる。帰りのチケットの入手に並ばなくてよいので、一度に買っておいた方がよいかもしれない。これは、かつて起点の駅からでしか列車の切符が買えなかった時代を思い起こせば、格段に便利になってはいる。
そういうわけで帰りの切符は入手済みで、かつ鎮江の高速鉄道の駅はさほど大きくもないから、30分前に到着すれば充分であろうと踏んでいた。とはいえ、何が起こるかわからない大陸の旅の事であるから、時間に余裕は欲しいところである。

 

昼過ぎに五亭吟春茶社に入り、1時間ほどゆっくり食事をして、1時過ぎに出れば充分であろうとこのときは考えていた。
さて、揚州では「陽春麺」という、何の具材も乗っていないシンプルな”かけそば”がある。また「蝦餃麺」という、エビワンタンが入った麺もある。五亭吟春茶社では「陽春麺」が5元(100円)で、「蝦餃麺」が7元である。数年前に比べて騰がったとはいえ、いまどき上海で5元では場末の”蘭州拉麺”すら食べられない。そう考えると、やはり揚州の物価は安いといえる。
特徴的な「陽春麺」を食べてもいいと思ったが、今回は揚州初めてという日本の知人が同行していた。「せっかくだから.....」という意識もあって、もう少し豪華な麺にしょうか?とフト考えた。メニューを見ると、最下部に「虾仁麺(シャアレンメン) 18元」というのがある。「虾仁(シャアレン)」は文字通りエビのこと。エビソバである。これが麺料理ではこの店の最上級の料理のようだ。18元といえば、このときのレートで360円ほどである。しかし「陽春麺 5元」に比べると別格に高価である。このときは一人旅ではないし、少し贅沢をしようと考えた。そこで「虾仁麺」と、炒め料理を一皿頼み、席に着いたのである。
 

五亭吟春茶社はレジで半券になったチケットを買い、テーブルに着くと店員がチケットの半券をもぎってオーダーを通すシステムである。オーダーミスを防ぐために、テーブル番号の書いた”洗濯ばさみ”に半券をはさんで持ってゆくようなスタイルもある。
このとき、チケットをもってテーブルに着くと、やや年配の女性の店員が来て、チケットをもぎっていった。その時、半券を少し見て「.....虾仁麺は少し時間がかかりますが、良いですか?」と聞くのである。さもありなん、地元の人でわざわざ18元もする虾仁麺を頼む人などいないのかもしれない。シンプルな「陽春麺」などは5分もしないで出てくることがあるから、時間がかかるといっても10分や15分、少し多めに時間がかかるのだろう、と高をくくり「可以(いいよ)」と返事をした。麺ができるまで、ビールを飲みながら炒菜(炒め料理)でもつついていればよい、という程度の、このときは浅い料簡だったのである。

 

杭州に「龍井虾仁(ロンジン・シャアレン)」という、小エビを塩味で炒めて緑茶の香りをつけた料理がある。杭州の銘茶である「龍井茶」が新茶の季節の名物料理なのであるが、小エビの炒め料理は江南諸都市はどこでもある。この料理は火の通し加減と塩加減の妙もさることながら、芝エビよりも小さなエビをひとつひとつ殻をむく労力も相当なものである。やはりなかなかの高級料理なのである。なので「虾仁麺」といえば、おそらくこの小エビの塩炒めが麺の上に載っているに違いない。小エビをある程度の量むいてゆくのは大変であるから、それなりに時間がかかることは察せられる。
エビを載せた麺、というのは、江南の水郷地帯ではよく見る麺料理である。「舟子麺(船頭そば)」というものも、たいていはエビが入っている。水郷地帯は昔は船で移動したから、船上で簡単に作れる軽食として、この種の麺料理が食されたのだろう。川エビはどこでもとれるし、エビを煮れば良い出汁になる。またエビの卵を塩漬けにして乾燥させたものは、”蝦子粉”という調味料になる。これをかけた「蝦子麺」は香港のエビワンタン麺もそうであるが、もとは安徽省南部の湖沼地帯の名産であるという。

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ところで五亭吟春茶社は、包子や麺料理だけではなく、炒菜もよくできている。ただ惜しむらくは、ここの揚州炒飯は格式にのっとった「正宗」ではない。普通の炒飯である。同行の知人には「正宗」の揚州炒飯を食べてもらいたかったので、前の晩は「食為天」で食事をしたのであるが、揚州炒飯以外の揚州伝統料理であれば、ここのような「茶館」もまったくもって悪くない。とくに五亭吟春茶社の「文思豆腐」などは、その豆腐を糸のように細かく刻む技量とスープの味わいにおいて、「食為天」のような有名店をしのぐものがある。


しかしはたして炒め料理を食べ終わっても、麺はまだ出てこない。件(くだん)の服務員が寄ってきて「今作っているところだから、もう少し待ってね。」という。うーむ、予想以上に時間がかかっているようだ。あるいは川や濠に小エビを採りに行っているに違いないと、冗談を言いながら新たに青菜の炒め料理を一皿頼むことにした。
この地方を訪れる三日前まで、南京から揚州にかけて豪雨が襲った。揚州では運河や濠があふれかえり、市民は路上に出て素手で魚をつかみどりした、という報道があった。我々が来た時にはすでに水はすっかり引いていたのであるが、痩西湖の水面は、やはりいつもと違った量感に満ちていたものである。
そういうわけで、小エビ共なんぞは洪水に流されて、皆皆逃げ散ってしまったのではなかろうかとも考えた。


これが北京、上海といった大都会の大きなレストランであると、さんざん待たされた挙句にオーダーが通っていなかった、なんていうオチもザラである。ザラであるから、地元の朋友などは服務員に何度も催促するのであるが、それでも時にままならないものである。
しかしこの五亭吟春茶社の場合は、何度も服務員が寄ってきて「もうしばらくお待ちください。」と告げてゆく。おそらく厨房の方にも行って様子を見てくるのだろう。このとき店に客も少なくなっていたので、忙しいから後回しにされている気配もない。ともあれこうして丁寧に「お待ちください」と言われれば、「はいそれでは」と待つ気になるものだ。
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五亭吟春茶社の店員は揚州市内の人、あるいは近郊に住む人で、地元の人が地元の客を接客するので、応対はなかなか親切である。これは北京、上海や深圳といった大都会では、今やあまりない応対である。
北京や上海のような大都市の住人は、飲食店の服務員などはなりたがらないから、地方の田舎から出てきた若者達がやっている場合が多い。しかし現代中国の地方と大都会の環境格差は大きく、彼らはなかなか都会の勝手がわからないのだろう。彼等のサービスが要領を得ない上に、大都会の顧客もなかなかもって気短かな連中も少なくない。また残念ながら、都会の人々は地方出身者に対してとかく隔意があるものである。そういうわけで、概ね、サービスをする側とされる側で良好な関係が成り立たないのである。

揚州の茶社や餐店においては、そういった店員と顧客の間でのギスギスした空気が見られないのもよいところである。
ちなみに日本に来ている留学生などは、飲食店でアルバイトしている人も珍しくないかもしれない。しかし大陸で都会の大学生が飲食店の給仕をしている、というのはまずお目にかからないものである。飲食店の給仕が一等低い職業とみられているところが、まずもって残念なところである。
 

それにしても、待てど暮らせど麺は来ない。ここでいよいよ大変な料理を頼んでしまったことに気が付き始めた。鰻屋に上がって蒲焼が焼き上がるの待つではないし、あるいは麺を打っているのか?イチから出汁をとっているのか?あるいはこの特別な麺料理は、厨房の親方しか作れないのではないか?その親方は本日休みか休憩中で、その弟子共が親方を呼びに行っているのではないか?その親方はたぶん趣味の釣に出かけていて、これがなかなか見つからないのではないか?などなど、いろいろ考えた。
時計はすでに午後の1時を回って半にかかろうとしている。あと五分待ってこなかったら、店には誠にもって申し訳ないけれど列車の時間があるから退散しようか、と思っていたところ「出来ましたよ。」と服務員が言うや、奥から恭しく熱々の麺が二杯、服務員に奉げられて出てきたのである。
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思いがけずスープの色が、白い。「陽春麺」のような、濃褐色の醤油味のスープでを予想したのであるが、そうではなかった。スープの塩気は薄目だが、思いのほか味が奥深く、上品な後口に淡白なエビの旨味が潜んでいる.........具材は青菜にきくらげ、それに子供の指の爪先ほどの小さなエビがたくさん入っている。なるほど、この小さなエビをむくのは手間である。麺は「陽春麺」などと同じ、やや平たい太めの麺である。
日本であれば優に二人前はあるかという量であったが、二人とも麺は得意な方であったから瞬く間に食べ終え、少しあわただしく店を後にした。
 

しかしエビをむくのにこんなに時間がかかるわけがないから、あるいはスープをとるために貝柱を水でもどすところからやっていたのではないか?という考えがよぎった。が、これから鎮江までのタクシーを拾って急ぐことを考えると、このときはそれを確かめている時間はなかった。
1時間も麺の出てくるのを待つというのも実に悠長な話かもしれないが、その悠長なところを味わうのも、近頃は味わえなくなった大陸の旅の本来の良さかもしれない。とはいえ待たされている間は、やっぱり簡単に陽春麺か蝦餃麺(エビワンタン麺)にしておけばよかったと、少し焦りを感じたものである。

が、不思議と時間が経って思い返すと「揚州に行ったら、またあの虾仁麺を食べようか」と思わないでもない。
 

落款印01


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