武漢夏日

..........今回初めて滞在したのが湖北省の武漢。夏の武漢というと、中国四大火炉(重慶、武漢、南京、南昌)に数えられる暑熱の街である。武漢近郊の朋友の婚礼に招かれたためにこの方面へ往くことになったのであるが、音に聞こえた武漢の酷暑にいささか怯(ひる)みを覚え、出席を辞退しようかと考えたほどである。
中国四大火炉のひとつ、真夏の南京は経験があるのだが、それはそれは酷い暑さであった。寒さにはいささか耐性を自負しているが、夏の暑さ、とくに湿度の高い暑さには弱いという自覚がある。加えて蒸し暑い時期には紙墨の調子が出ないものなのである。
 
今や大阪も相当暑い都市である。夏が暑いのは当たり前だが、小生が生まれ育った東京西部とは異なる、大阪の湿気をはらんだ暑さはどうにも耐え難いものであると、毎年思いながら過ごしてきた。大阪も水路が縦横に走り、水の上に浮かんだような恰好の街であり、海も近い。どうしても湿度が高く、暑さをさらに耐え難いものにするのである。
武漢も、地図で見るとよくわかるが、武漢、漢口、武昌といった都市が湖水の上に切れ切れに浮かんでいるような連鎖複合式大都会である。都市の規模と広がりで言えば、お隣の湖南省の省都、長沙などよりもずっと大きい。まさに内陸屈指の大都会なのである。
夏の武漢2016
まず香港から深圳に移動し、そこから武漢へ向かう。深圳から武漢へは、飛行機か高速鉄道のルートがある。飛行機では2時間、高速鉄道では深圳北から5時間かかる。折しも台風が接近しており、飛行機は空港へのアクセスと、遅延ないし欠航の可能性を考慮して高速鉄道で行く事にした。
深圳からの高速鉄道は途中、広州、韶関、衡陽、長沙、岳陽などを経由して武漢に到るわけである。
夏の武漢2016
高速鉄道のキャビンでは、文字情報のメッセージが流れるのであるが、現在速度や次に到着する駅の名前のほかに、外気温が表示される。この外気温、広州東駅で「40度」が表示された。列車は午後1時過ぎに深圳を出て、1時間くらいで広州であるから丁度昼下がりの最も暑い時候である。それにしてもこれは非常な暑さであるなと思ったら、次の韶関でも40度。続く衡陽、長沙、岳陽も40度......終点の武漢は夕方6時を回ってたのであるが、やはり40度.........さすがに何か不自然なものを感じなくもない。とはいえ、前途の酷暑を予感させる出来事ではあった。
夏の武漢2016
武漢駅に朋友の親類が迎えに来てくれており、まずは随州へ直行。婚礼の後で武漢へ戻り、二日ほど滞在する事にした。やはりここまで来て黃鶴樓に登らないわけにはいかない。が、黃鶴樓の様子はまた別の機会に。
夏の武漢2016
ともかくはじめての武漢滞在であったが、果たせるかな、名にし負う、夏の武漢のこの暑さ、聞きしに勝る暑さなりけり、なのである。
.......真夏の大阪は、夕方近くのある時間帯、風が”凪(な)ぐ”時間帯がある。気温上の暑さのピークは午後の2時3時であるが、風が凪いで空気の流れが止まった時候がもっとも暑さを感じるものである。たとえていうなら、武漢は一日中、この大阪の暑熱のピークが続くような雰囲気であろうか。
夏の武漢2016
そもそも7月初めの武漢は、日没が7時半と遅い。太陽が出ている時間が長い分、暑さが夜に持ち越されるような感じがある。
朝7時くらいに気温を見ると、すでに30度である。午後2時前後に33度まで上がり、午後8時になっても32度である。暑さが続いたまま夜を越して、そのまま朝に継続しているような、それはもう未来永劫、永久機関のように続く暑さなのである。しかも道路やビルの壁面が熱せられ、四方八方からの熱気に圧迫される。濃い霞をひろげたようなうす曇りの空は、太陽の熱を遮るというよりも、熱気をはらみながら頭上にのしかかってくるような、重い重い雲の色である。蒸されたところに白いお椀でフタをされたような、そのお椀を地上から見上げているような、そのような心地である。
気温が33度であれば、大阪あたりでは木陰に入ればしのげなくもない。しかし武漢は空気の温度がほぼ一様なのか、日陰でもさほどの変化がない。一歩外に出れば、逃げ場のない暑さなのである。
夏の武漢2016
武漢では、黃鶴樓の付近のビジネスホテルに投宿した。このホテルは黃鶴樓沿いの民主路から折れた臙脂路という、二車線ほどの通りにある。同じビルの一階は、生地や糸など、裁縫関連の小売店が詰まっていた。

ホテルから出て臙脂路の歩道を民主路に向かって歩く。ふと見ると、歩道の路面が濡れている。にわか雨の気配もなく車道は乾いているのでいぶかしく思うや、頭上からシトシトと水滴が滴り落ちてくる。ビルの壁面に設置された、室外機からの水滴である。
大陸のビルにはベランダがついた建物が少ないため、壁面に貼り付けるように、空調の室外機が取り付けられている。そこから漏れ落ちる水滴が時に頬に当たって、雨の降り始めを疑わせることがある。しかしここ武漢のように、歩道の路面が濡れて水たまりが出来るほど、かくも盛大に漏れ落ちてくるのを見るのは初めてである。さぞかし各部屋の空調はフル回転している事だろう。
良く利用する台湾資本のチェーンのビジネスホテルは、安価であるが、部屋は清潔であるし、設備も比較的新しい。部屋ごとにエアコンが設置されているので、夏場も快適である。全館型の冷暖房を採用しているホテルなどは、設備が古いと除湿機能が無かったり、細かい温度調整が出来ないとか、なかなか冷えないとか暖まらないとか、不便な事がままあるものである。
有り難い事に部屋の空調は除湿機能があり、よく効いた。部屋の中にいる限りにおいては、すこぶる快適なのであるが、一歩外へ出るとやはり大変な暑さである。
夏の武漢2016
夏の武漢2016
こうした武漢の暑い夏、街の路傍では蓮の実が売られている。蓮の実を売るのは武漢に限らなにのであるが、武漢はとりわけ多い印象がある。街角辻々のいたるところで、蓮の実売りを目にするのである。暑い街中にあって、蓮の子房の緑が目に鮮やかで涼し気である。
夏の武漢2016
武漢は無数の湖や池、沼沢の類に囲まれており、いたるところ蓮が湖水を覆っている。その青い実を売るのである。実は表皮を剥いてそのまま生食する。薄皮に渋みがあるが、ごくかすかな甘さと、軽い食感を楽しむものである。また蓮の実は体を冷ますので、暑い夏には良い食べ物とされる。
また実をとった後の蓮の子房は、昔は器物の洗浄にも使われた。硯も、ヘチマないしは蓮の子房で洗うべし、というように記されている文献もある。
夏の武漢2016
夏の武漢2016
また武漢の蓮の実売りの屋台の上には、「土匪烟」「土豪烟」などと書かれて、葉巻のようなものが売られていることがある。これは、蓮の葉で作ったタバコなのである。蓮の葉のみで作られているのか、中にタバコの葉が巻き込まれているのかはよくわからない。小生、タバコは吸わないのであるが、面白いので土産に少し買って帰ることにした。
夏の武漢2016
武漢の軽食といえば、ゆで上がった麺を胡麻ダレで和えた「熱干麺」が有名でなのであるが、夏場は「涼麺」も良く出ている。この「涼麺」はゆで上がった麺をさらして、麺同士がくっつかないように油を打ちながら、扇風機をかけて盛大に冷ましている。
夏の武漢2016
夏の武漢2016
冷やした麺、というよりは常温の麺なのであるが、この麺と刻んだきゅうりを酢と醤油で和えた麺は、いわゆる冷やし中華によく似た味である。ネギや香菜などの薬味は各自好きなだけかけるのであるが、皮を剥いていないにんにんくもおいてある。
そのままかじるのだそうだ。昼間から生のにんにくをかじるのもどうかとおもうところであるが、こうも暑いと、生にんにくでも摂取しないと体が持たないというのもわからなくはない。酢の効いたタレに、生のにんにくを少しかじりながら食べるのは、まったくもって悪くない。
夏の武漢2016
有り難い事に、こうした麺屋でも、冷たいビールを置いている。度数もせいぜい2.5度くらいなので、水替わりにビールももらう事にした。「涼麺」をつつきながらビールを飲んでいると、少し暑さも和らいでゆく気がするものである。
 
暑いとき、体を冷ますには「西瓜を食べる」というのが常道である。ほかにもキュウリやメロンなど、いわゆる「瓜」の仲間ならよいわけである。日本も都会だと西瓜も高くなってしまい、そうそうふんだんに食べるというわけにはいかなくなってしまったが、大陸では年中出回っている上に、非常に安価である。大陸も果物をちょっとした贈答に用いる習慣がある。値段は少し高めであるが、吟味された果物を置いている店も多い。こうした店では買ったフルーツをカットするサービスをしてくれるところもある。
夏の武漢2016
夏の武漢2016
西瓜を買ってホテルで切りながら食べるのは難儀なので、花楼街近くで目にした「ちょっと良い果物屋」で西瓜を買ってカットしてもらう事にした。自分で選んだ西瓜を切ってくれるのであるが、美味しくなければ、無償で他のものに交換してくれるという。実際、1個目を切って少し試食してみたのだが、見立てが悪かったのか甘味が薄く少し酸味を覚える。そう言ったら、アッサリと別の西瓜に取り換えてくれた。切ってくれたのは学生のアルバイトであるが、なかなか良い手際で、流暢な英語で親切に応対してくれたものである。
夏の武漢2016
夏の武漢2016
暑いなら暑いなりにさすがに過ごし方はあるものである.............が、道々冷たい水を買って飲み、涼麺や冷えたビール、そして西瓜をエアコンの効いた部屋で食べていたら、当然というべきか、見事にお腹を壊したのである。あいにく携帯している薬の中にも、その方面の薬が切れていた。仕方ないので現地の薬屋で適当な薬を買う事にしたのであるが、良くできたことに、武漢と言う街はなぜか病院や薬局が数多い。ホテルを出てすぐのところの薬局で薬を買い、とりあえずは事無きを得たのである。ホテルに停滞出来るのであれば、部屋でじっとしているのもひとつの手であるが、翌日は黄州へバスで移動である。お腹を壊したままの長距離移動というのは、たとえトイレのある高速鉄道や航空機であっても非常に難儀である。
 
大陸の薬は基本的に漢方薬が多く、有効成分がなんだかよくわからないところがあって、あまり効かない場合も多い。なので1回に服用する錠数を若干増やすのであるが、ともかく効いて、明朝黄州へ立ったのである。
暑熱が続けば、厚い雲が呼ばれるのが天の理である。黄州へ立つ日の朝方、雷鳴とともに豪雨が降り注いだ。ごく短い時間、熱い路面が雨で洗われた後は、濃い湿気が立ち上って蒸されるようであるが、それでも暑気がいくぶんはやわらいだ気配がする。
夏の武漢2016
この武漢の暑さ、他所者にはやはりすぐに順応するのは難しかったようだ。勝手がわからない初めての街だと、移動や休憩にも要領を得ないものであるから、多少暑さに自信があったとしても、油断は出来ないところであろう。秋と夏では、行動の制約がだいぶ違うという実感がある。中国では歳月を「春秋」とも言うが、「夏冬」ではないのである.......嗚呼、せっかくの武漢、再訪の機会あれば春か秋にしたいものだ。武漢にかぎらず、真夏に内陸の大都市に行かれるのは(第一におすすめできないが、やむを得ないときは)体に充分ご注意いただければと思う次第。
落款印01


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