湖北の水害

7月の武漢〜随州行に際して、一番の懸念は水害による交通機関への影響であった。まずは深圳から武漢へたどり着かなければならない。長江流域内陸部は長雨の影響で各地で河川の氾濫、家屋への浸水被害が出ている。出発の前々日に、武漢駅前が冠水している画像を目にしていた。武漢で待つ朋友は、飛行機で来るなら空港まで迎えに行くというのであるが、悪天候ともなれば飛行機は大幅な遅延ないし欠航もあり得る。五時間待たされた挙句に欠航、という事態も大陸では珍しいものではない。招かれた婚礼の前日に現地に入る日程であったから、飛行機の欠航は致命的である。

「船で行こうか?」と冗談を言ってみたものの、本当にどうするか?考え込んでしまった。上海の朋友などは、危険だから行くのを止めた方が良い、とも言う。私も正直、途上で立ち往生する可能性も鑑みて、辞退する方に気持ちが傾きかけたのであるが、湖北の朋友は「万難を排して」来てほしいような雰囲気である。
ともかく、空港で為す術もなく待たされるよりは、という事で高速鉄道を選んだ。深圳北駅から武漢駅までは5時間半の距離である。
結果的に、何の障害もなく武漢にたどり着いたのであるが、運もよかったのかもしれない。広東から南方に行く高速鉄道は、接近する台風の影響で運行停止が目立っていた。高速鉄道の車窓からは、岳陽から武漢の間の上空に、高層な雷雲が暗く聳えているのが見えた。あの雷雲の中を飛行機で下りてゆくのはゾッとしない。
ともかく深圳から北西方向へ向かう武漢方面は、特に影響がなかったのである。武漢に到着したら、駅前の冠水も水が引いていた。
車で武漢の市内を流れる長江を渡った時は、両岸の河川敷がすっかり水に浸っていたのを目にしたのであるが、それでも市街への浸水は限定的であるという事だ。武漢在住の朋友の姉は何事でもないような口ぶりである。写真に撮る間がなかったが、膨大な灰色の流れの中に、群島のように連なって、大小の灌木の僂浮かんでいた。

武漢と随州の間は水害の影響はまったく感じられなかった。随州での婚礼の後に武漢に戻り、黄州へ向かう高速バスの車窓からも、増水して岸辺の木々が水につかっている池沼を時折目にするほか、洪水の被害というほどの光景は見られなかった。
2016武漢水害
黄州から武漢への帰途は、鄂州市から武漢への高速鉄道に拠った。黄州からタクシーで長江をわたり、対岸の鄂州市の駅へ行く。そこから高速鉄道に乗るのである。その武漢へ向かう高速鉄道の車窓から、氾濫浸水した家屋がいくつも目撃されたのである。やはりというべきか、相当な被害が出ていたようである。とはいえ、武漢周辺の長江流域の広大な範囲からすれば、これでもほんの一部なのであろう。たまたま堤防が崩れたとか、低地にあったという事で浸水被害を免れなかったのかもしれない。水面からわずかに屋根を見せているほどに浸水している区画に隣接した領域では、何事もなかったかのように乾いた地表が露わになっているのである。
2016武漢水害
洪水で思い出すのは、武漢より長江沿いのはるか上流にある「三峡ダム」である。計画自体は1950年代、毛沢東の時代から存在した。建設を提唱したのは毛沢東である。しかしダムの建設が強力に進められたのは江沢民時代の1995年からで、ダムが完成したのは2006年。さらに周辺設備が完成したのが2009年である。いうなれば完成から10年ほどしか経過していない。
かつて毛沢東は、三峡ダムが完成した暁には「一万年に一度の大洪水も防ぐことが出来る。」と豪語したという。しかし近年、たびたび起こる三峡ダム下流域の洪水は、そんなノアの大洪水のような規模ではない。
2016武漢水害
察するに、堆積する土砂によって、ダムの貯水容量自体が計画と違ったものになっているのであろう。ダムは定期的に浚渫、排砂しなければその機能が低下するのであるが、三峡ダムほどの規模のダムに有効な浚渫の手法が存在するのかどうかは分からない。今現在の三峡ダムの正味の能力がどの程度なのか、数値が見当たらないので想像するよりないが、下流域で頻繁に起こる洪水を見る限り、計画には程遠い能力しか残されていないのだろう。
三峡ダムに限った事ではないが、途上国にしばしば建設される巨大ダムというのは失敗例が多い。建設に伴って土地を追われた原住民は都会で貧困化し、建設されたダムの電力は有効に使用されない。とどのつまりダム建設に伴う利権目当てでその国の支配者階級や、国際的なゼネコンが潤う、という仕組みなのである。

昨年あたりから、現在の三峡ダムには洪水調整能力がほとんどない、という事も言われるようになってきている。それどころか「もし三峡ダムが決壊したら、下流域にはどのくらいの被害が出るのか?」という、空恐ろしい話もささやかれている。またそれと関連した話なのかもしれないが、一発のミサイルでもって山峡ダムを破壊すれば、核兵器を用いずとも中国を壊滅出来るというような、至極物騒な事を言い出す大陸の論者もあらわれている。そういった無辜の人民に巨大な被害をもたらすような作戦を、いったいどこの国が好んでやると考えているのだろうか。しかし、勝つためには人民にどれほどの犠牲を強いても構うまい、というあたりがいかにも大陸的ではある。

..........寒くなるにしたがって、大陸では再び大気汚染が深刻化している。それは北方を中心に、製鉄所をはじめとした工場の稼働率が高まっているからである。大気汚染がここニ年ほど改善を見せていたかのように見えたのは、過剰生産を踏まえた生産の抑制が奏功していたためである。あれほど声高に対策が叫ばれていたにも関わらず、また二十数兆円に上る公害対策費が計上されたと報道されていたにも関わらず、抜本的には何も改善されていなかった、というのが実情のようである。
工場の生産が再び活発化するに先立って、大規模な金融緩和が実施されている。それは今年の秋口くらいまでの不動産の高騰をもたらし、停滞していた建設プロジェクトを再開させ、それが石炭鉄鋼などの旧態産業が息を吹き返す契機となっている。

大気汚染は相も変らぬ債務の拡大に頼った投資主導の経済成長の副産物なのであるが、そうでもしないと既に膨大な債務を積み上げた地方政府や大手企業の資金繰りがつかなくなり、金融危機に見舞われる。もはや環境がどうなろうが、経済の実質がどうなろうが、この壮大な悪循環を止められないのが今の大陸経済の現実なのであろう。常識で考えれば、このサイクルは既に持続不能な水準に至っているのであるが、権力至上主義の政府は、そうは考えないのだろう。すでに産業の至る所「大きすぎて潰せない」状況が固着している。もはや構造を変える事も出来なければ、悪循環を停止する事も出来ない。それは”三峡ダムプロジェクト”と同様、プロジェクト自体が目的化してしまっているのである。よほどの政変でも起こらない限り、そういった状況が続く事は覚悟しなければならないのだろう。
無論、住んでいるわけではなく、時折短期滞在するだけなのであるが、やはりどことなく気が重くなる。やりきれない話だが、現代中国はそういう国家なのである。
落款印01


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