”逃耻用”小考

以下まったくの余談。
最近、中国の若い朋友から「”逃耻用”みましたか?」と聞かれるので、何の事かと思ったら、日本の連続テレビドラマなのである。「一話たりとも見ていない。」というと「それは残念ですね。見るべきですよ。中国ではとても人気があります。」という。
”逃耻用”の”耻”はつまり日本語で書くところの”恥”の事なのであるが、ようは”逃げ恥”、と略称されるドラマが中国でも大人気、という事である。そんなものかと思ってインターネットで少し調べると、なるほど若い人を中心に熱くなっていることが感ぜられる。

だいたいにおいて、大陸に於いて人気のあるドラマというと延々と続く長大な韓国ドラマなのであるが、これは比較的高い年齢層の女性に支持されている。若い人は短期決戦型の日本のドラマを好む人が増えているような気配がある。そもそも海外のドラマが、何故そんなに人気があるかというと「国産ドラマは面白くない。」という返事が返ってくる。ある程度の教育水準がある大陸の若者は、粗製乱造される”反日神劇”など見ないのである........
それはさておき「逃耻用」は略称で、タイトル全体を中国語に翻訳した例を探すと、これがいろいろ出てくる。そこに少し興味をおぼえた。

”逃跑可耻但有用”
”逃避可耻却有用”
”逃避無耻却有用”
”逃避雖可耻但有用”
”逃避可耻却有用”
”逃避可耻却很有用”
”逃避雖然可耻但却有用”

と実に様々なパターンがある。何故こうも多くの訳例が出てきてしまうのかといえば、正式に大陸の放送局なりで放映されていないからであろう。公式の放送があれば、そのタイトルに統一されるはずである。皆々、インターネット経由などで勝手に視聴しているのである。
およそ”逃げる”を”逃避”ないし”逃跑”に訳している。”跑”は走る、くらいの意味である。”逃跑”にすると文字通り走って逃げる、という意味になるが、”逃避”であれば心理的な”逃げ”も含むことになる。
また”恥だが”を訳すところには”恥ではあるが〜役に立つ”という、逆接的な係り受けをどの程度重く解釈するかによって”可耻(恥ずべし)”あるいはそれに”雖”を付けて”雖可耻(恥ずべきといえども)”さらに文語的に”雖然可耻(恥ずべきは然りといえども)”としている例もある。ちなみに”可耻”はひとつの単語で、公共道徳に反する行為、あるいは人に罵られるような行為、という意味がある。ここを”無耻”としている例もわずかにあるが、この場合は”恥知らず”くらいの意味になる。

それを受けるに「但有用(ただし用あり)」という例が最も多いようである。”有用”で「役立つ」という意味になるが「用」の一文字でも「使える、役立つ」という意味にはなる。あるいは「却(かえって)」を入れて「却有用(かえって用あり)」あるいは「但却有用(ただしかえって用あり)」というように、逆接的な命題の接続をより強調している例もある。もっとも懇切な例を示せば、

”逃避雖然可耻但却有用”
”逃避は恥じて然りといえども、ただしかえって用あり”

であろうか。
ともあれ、さまざまなタイトルの訳例の存在と、”逃耻用”という略称の存在が、大陸における人気のほどを表しているともいえるだろう。オフィシャルな放映がないままのこの盛り上がりようである。

そういえば「”你的名字”見ましたか?」ともよく聞かれる。”你的名字”..........これは公式に大陸で映画が公開されているので、タイトルは統一されている。実はこちらも見たことがないのだが、最近の大陸の若い朋友達の話題についてゆくには、日本のドラマやアニメを観ないといけないのか..........と思うとなかなか気が重い。まあ、無理に合せる必要もないのだろうが。

ところで大陸のドラマといえば”紅樓夢”に尽きるのであるが、それは文芸の世界においても、”紅樓夢”を超える作品がなかなか生まれない、という事でもある。人間の種々相が紅樓夢にほぼ書き尽くされてしまっており、あとは何を書いても”紅樓夢”の亜流、ないしは部分集合に過ぎなくなってしまう、という悩みがあるようだ。
人の感情は人間同士の関係性、あるいは社会的な文脈で深化されるものであるから、大陸の文芸世界が依然として”紅樓夢”を越えられないのだとすれば、現代の大陸社会も”紅樓夢”の時代と本質的にはあまり変わっていない、という事実の傍証でもある。
そこへもって、現代中国とまったく違った社会の産物である”ドラマ”にえがかれている感情や価値観というのは、確かに新鮮なものとして目にうつるのだろう。また今やすくなからぬ大陸の若い人たちが、それに共感を覚える、ということのようである。
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