屯溪の毛豆腐

今まで書かなかったのも不思議なくらいの話題なのであるが......黄山の珍味に、毛豆腐、というものがある。
屯溪毛豆腐
その昔、初めて屯溪を訪れたとき、屋台の料理屋で勧められるままに食べたのが毛豆腐であった。生の唐辛子と一緒に、炒めたものが出てきたのである。辛そうな赤い油に、焦げた、ショートブレッドほどの大きさの固形の物体が沈んでいたのを覚えている。まわりに脱脂綿のような繊毛が切れぎれに付着しているのをみると、口にいれることにかすかなひるみを覚えたものである。皿からは、納豆を炒めたときのような、独特の香りが漂っている。箸で割くと糸、というよりも皮膜のような粘りがのびる。噛むと薄い皮の中から、木綿豆腐を柔らかくしたような、糸を引く濃厚な内容物が出てくるのであるが......
これがはたして口中強烈な臭いのする食べ物で、味をたとえるならやはり納豆に近いだろか。その納豆のアンモニア臭を強烈にして細かくすりつぶして裏ごしし、固めて焼いたような風味、というところだろうか。納豆を焼いたときの、あの臭いをさらに強くしたような.........珍味には違い無いが、ひとふた口で充分、というのが当時の印象であった。
ところがそれから屯溪行の回を重ねるごとにだんだん口になれ、今では屯溪にいったら一度は食べたい味になった。毛豆腐は、中国の人といえども当時はほとんど知られていなかったのである。なので同行の朋友に「屯溪に来たらぜひ毛豆腐を食べなきゃ。」とかなんとかいって食べさせているうちに、自分も慣れていったというわけである。子供のころから納豆に慣れている日本人の方が、あるいは慣れやすいのかもしれない。いまだに駄目な朋友もいるのである。
屯溪毛豆腐
屯溪毛豆腐
ひとつには毛豆腐自体の臭気が、だんだんと和らいでいったということもあるだろう。現在の毛豆腐は、かつて感じたほどの臭みがなく、いたってマイルドな味になっている。毛は生えているのであるが、毛豆腐同士は納豆のように糸を引くことがない。そのむかしは箸で割っても、しっかり糸を引いていたものなのであるが.......。
それは紹興や長沙の臭豆腐しかりで、個性的な風味が穏やかになるにつれて全国的に受け入れられるようになった、ということかもしれない。
それは日本の納豆などにも言えることだろう。納豆も思えば昔は臭かったもので、練り辛子と刻んだネギを入れないと子供心には抵抗感があったものである。それが今やネギを入れてしまうと納豆の味がしない。
屯溪毛豆腐
毛豆腐にもいくつか食べ方があるのだが、多くは「紅焼」つまりは醤油炒めである。唐辛子を入れて辛く仕上げている場合が多い。
毛豆腐は徽州全般で食べられているかというとそうでもなく、やはり屯溪地区に多いようである。績溪や、婺源では見たことが無い。その屯溪でも、全住民が好んで食べているかというと、敬遠する人もいるのである。
しかし屯溪でも、昔はもっぱら毛豆腐を売りにする店などなかった。各家庭で作るか、市場で売っているのを料理屋が仕入れて出していたのである。ところがCCTVの「舌尖上的中国」で毛豆腐が放送されてから有名になり、今や”毛豆腐専門”の小店が老街周囲にいくつかできている。朝食に餛飩を出す小さな店で、朝から毛豆腐を食べることができる.........しかしもともと、朝食向きの食べ物であったのだろうか.....?
もっとも、そういった「専門店」の毛豆腐はいわば万人向けのいたって食べやすい味で、日本の納豆が食べられる人であれば普通に食べることが出来るだろう。
屯溪は徽州、黄山観光の基地であるから、お立ちよりの際は”毛豆腐”を試してみるのも一興であろう。
落款印01


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