モノポリー・香港

時事の話題をもうひとつ。
......およそ一年ぶりの渡航はまず香港へ。香港といえば食の楽しみの多いところであるが、実のところ飲食店の入れ替わりは激しい。以前に行って良かった店にまた行こうと思っても、すでに畳んでいて別の店に入れ替わっている、というケースは珍しくない。
今回も、何度か行ったことのある、尖沙咀のフランス料理のレストランへ向かってみたら、スイス料理の店に代わってしまっていた.....香港では香港料理、飲茶ももちろん良いのであるが、西洋料理もリーズナブルに楽しめる店が多い。そんな店のひとつで、味も雰囲気も良かった。かれこれ7〜8年くらいは香港滞在の折に通っただろうか。これは残念である。確実に人気のあるお店で、週末などは予約が必須であったのだが。
香港在住のO氏に言わせると、香港の飲食店の入れ替わりが激しいのは、単に競争が激しい、という理由だけではい。テナントの賃料が年々騰がっている、ということも大きな理由だそうである。せっかく流行っても、契約期間が終わると確実に賃料の値上げが要求される。嫌なら出ていけばいい、借り手はいくらでもいる、というところなのである。繁華街で相当年数生きながらえている老舗というのは、経営者がすでに物件のオーナーになっている場合に限られる、という事だ。
2010年ごろから毎年数度、香港に行くようになったが、繁華街の安価なレストランカフェ、いわゆる”茶餐店”の数が昔に比べて相当数減っている。お土産物屋や、宝飾品店になってしまっているのだ。残った茶餐店も、軒並みメニューの値上げを余儀なくされている、という現実がある。
香港2017
尖沙咀の角にあったこのスナック・スタンドも改装中........同じ店が営業するのだろうか。
くだんのO氏曰く、10年前は朝食に茶餐店で卵サンドを食べても、二個くらいの卵が使われていた。なのでお昼までその朝食で充分におなかが保たれたそうである。それがここ数年は、せいぜい卵が一個くらいしか使われていない、内容の薄いものになってしまった。ゆえに朝食に食べてもお昼前に空腹を覚えてしまうという。
O氏とは、渡航が週末にあたると、西貢からのかるい山登りを含んだハイキング・コースを歩くのであるが、入る茶餐店が毎回代わって、いまは”大家楽”というチェーンのファミリーレストランになっている。曰く、ここのモーニング・セットが最も費用対効果が高いのだという.......
香港2017
西貢に行くミニバスを油麻地で待っていると......いつもはここに”傷心酸辣湯”の大きな看板が掲げられていたのだが、これも不動産の看板に代わっている........
「住宅の問題さえ解決すれば、香港は住みやすい都市」という事を、シンガポール出身のO氏は常々言うのである。しかしこの「住宅の問題」を解決するという事が、大半の香港の住人、特に若い世代にとっては、すでに現実的ではなくなりつつあるという。2LDK、50平米未満の香港では標準的な中古マンションでも、都市のかるく1億円を超えてしまうのである。
O氏の家族との会食の席でのこと。O氏の奥さんが言うには「最近香港では、昔買って値段が騰がった香港の自宅を売って、日本のマンションを何部屋か買い、日本に移り住む人が出てきている。」という事である。
昔、まだ2〜3000万円程度で香港のお部屋が買えた時代に、多少頑張って買った人達は、今はだいたい60歳を超えたくらいであるそうだ。セントラルや旺角など、繁華街に近い場所なら普通に1億5000万〜2億近くで売れるのだという.......たしかに日本、たとえば大阪であれば、新築3LDKでも3〜4部屋は買えるのではないだろうか......駅近の70平米のタワーマンションでも6000万円を切るくらいである。仮にひとつに住んで、残りを賃貸に出せば、年金と併せて日本でゆとりのある老後が送れる、というわけである。狭いことを揶揄される事もある日本の集合住宅であるが、香港に比べると広さの面では充分なゆとりがある。また老後に気になるのが医療保険であるが、日本は国民皆保険の手前、外国人にも公的保険が適用される。かなり手厚い香港の医療保険から外れても、まずまず安心、というわけである。
香港2017
しかし香港では、こんなに高い値段の部屋でも買い手がつくのであるが、その大部分は大陸からの購入者の存在である。またもう十分に値上がりしきった感のある現在でも、年率で平均10%は価格が上昇しているというから、O氏は「クレイジー。」とあきれ顔である。
究極、今や香港の産業は「不動産と金融しかない。」という。その金融も、不動産と表裏一体の存在、というわけである。あとは観光客を当て込んだ小売、飲食、サービス業しかない。香港の経済は観光が支えているというが、観光客を相手にした飲食やサービス業などは、いまや零細な産業に過ぎないのだという。おもえば、東京都心以上に不動産が高騰してしてしまった香港にあっても、外でする食事の値段というのは、(割高感のある日本料理は別とすれば)2〜3割は安い印象なのである。為替の影響もむろんあるにしても、割安な印象はここ10年ほど変わらない。という事は、どこかに無理があるはずなのである。
しかしながら、セントラルの金融センターがすべての雇用を賄いうるはずもなく、庶民の大部分は小売、飲食や(公的も含む)サービス産業に従事するよりないのであるから、いつぞやの新型肺炎騒動のように、観光産業が打撃を受ければ香港の経済は立ち行かないのである。

さて、香港の滞在の後に深圳に移動した。深圳では朋友のSさん夫妻に第一子が誕生したので、その祝いを兼ねて、という事でもある。湖北省出身のSさんは、現在は宝安空港近くの地下鉄直上のマンションに住んでいる。3LDK、70平米ほどの広さであるが、2年前の購入時は300万元(現在、1元≒17円)を切る程度であった。それが今や500万元を超えているのだという。
まだ30歳未満のSさんは、電子部品を扱う小さな商社を経営している。旦那さんは大陸家電の大手企業、華為の営業マンである。概観すれば、この年代にしてはそこそこ成功している、と言ってよい境遇なのである。しかし子供の将来を考えると、そうそう楽観的になれないという。
Sさんは7〜8年前に地方都市の惠州というところに、投資用マンションを購入している。日本円にして一千万円くらいの部屋であったというが、これははっきり失敗だったという。値段も上がらないし、売ることも出来ない。
自分の住居用に買ったマンションの値段は騰がったが、ここを売っても、もっと良い場所に部屋を買えるわけではないので、金額は意味が無いという..........深圳の不動産も場所によって上昇を続けているが.......広東の他の地方都市、たとえば珠海や中山、佛山といった中小都市には、売れていないマンションが大量にある。いや広東に限らず、いまや大陸の都市ではその規模の大小にかかわらず、大量の不動産在庫を抱えている。田園風景の中に孤立した高層マンションの一群は、もはや見慣れた景観である。
Sさんの従兄弟は昨年暮れに結婚したが、深圳ではとても部屋が買えないので、隣の東莞に部屋を買って住んでいるそうだ。東莞の物件は深圳にくらべるとずっと安価なので、個人に限らず、企業も工場も深圳から東莞に移転するケースが増えているという。

深圳の後は上海に移動した。上海のD君に会うのも一年以上ぶりである。
D君も今年39歳。アメリカとのビジネスでなかなかの成功を納めている。去年、オフィスマンションを一部屋購入したのであるが、これは5〜6人の従業員を抱えるようになった自分の会社のオフィス用の物件である。自分自身の住居用はまだ購入していない。D君、実のところ家は日本で買いたいのだという。
D君は小さなメーカーを経営しているが、大陸の市場には製品を売っていない。もっぱら、アメリカを中心とする欧米が市場の中心なのである。大陸で開発、製造、輸出をしているから、仕事の基盤は大陸にあるのだから、日本へ移るというのも容易ではないだろう。しかし大陸の会社を任せられる人物がいれば、自身はすぐにでも日本に定住したいのだという........この日本移住願望は、D君と知り合ったころから聞いているのであるが、アメリカとの事業がうまくいって多忙なために、かえって実現が遠のいている状況である。

上海人のD君がしみじみ言うのは、このまま上海にいても、未来が見えないのだという.......上海が地球上で一番良いところ、というのが上海人のステレオタイプなのであるが.....D君はかなり悲観的である。
D君も「いまの中国でもしお金があるなら、何かをやるより不動産買ったほうが良い。儲かる。」という。そういうD君は好んで不動産投資をしたいという人ではなく、これは自身で製品を開発し、製造輸出をしているD君なりの当世への皮肉を含んでいる。
「不動産は馬鹿でも儲かる。」と、D君は言う。まあ、それはいくら何でも不動産業を営む人には失礼かもしれないが、D君のように海外でも売れる新製品を開発できる能力をもった人間は稀であるし、それに比べれば資金と時宜を得ていれば、比較的始めやすいビジネスなのかもしれない。資金とタイミングが合えば、の話であるが。
一面、不動産以外に有望な投資先が見当たらない、という事でもある。その不動産投資が、少ない元手で始められることでは、もちろんない。政策によって不動産の価格がある程度は維持され、インフラ投資で額面の経済は成長しているかのように見えても、人々の将来への閉塞感というのは相当なものなのである。大多数の庶民は、高額なローンや家賃にあえぎあえぎ生活しなければならないのだとすれば、それは一体、誰のための社会なのか?という事を考えてみたくなる。
今年の半ばごろから、政府の不動産投機の抑制策によって、地方都市の不動産は軒並み下落している。ただ、こうした不動産への投機ないし投資の抑制は、過去数年の間に繰り返されたもので、不良債権が増加して金融危機が表面化する前に再び緩和されるのが常なのである。昨年始まった前回の規制も、春節前には緩和に転じているのである。
香港2017
香港2017
香港芸術博物館も改装中である。
”モノポリー”というゲームがあるが、香港をみていると、なるほどと思う。香港はかなり極端な例であるが、あるいは大陸の主要大都市の未来像かもしれない。どんな商売でもたいていは場所がいるものであるが、利便性の高い場所の賃料が高すぎるとなると、見合うだけのサービスを開発するのも難しくなるだろう。その点、香港はバランスを失いつつあるのかもしれない。それはまた、局地的には日本でも起こりえることなのだろう
落款印01


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