屯溪の民宿

.......屯溪での宿泊は、いつも地元の旅行代理店に勤める、P小姐に依頼している。屯溪の老街に実家がある、生粋の地元っ子なのである。今は一児の母となって、老街近郊のマンションに家族で住んでいる。とはいえ仕事をしている関係上、よくあることだが、ひとり息子を両親に預けていることが多い。それでしばしば老街の実家にも滞在しているのである。
今回、上海の朋友のD君は、彼女を伴っている。現在、杭州の中国美術学院に通うこの女性は、文房四寶に興味があるので同行を希望した、というわけなのである。それはまったく問題ないのであるが、P小姐には私と彼らの分と、二部屋の予約をお願いしたのである。P小姐は地元のホテルはたいてい知っているので、直前の予約であってもほどほどの値段で良い部屋を用意してくれている。今回は少し急であったので、老街の実家近くにある民宿に部屋をとったのだという。

日本でも増加する外国人観光客に対して宿が足りず、ホテルの増設にも限界があるという事で、いわゆる”民泊”が認められようとしている。実のところ大阪界隈では法整備に先立って、かなりの数の民泊が営業しているようである。格安航空会社の普及と、途上国の経済成長のおかげなのか、海外を旅する人は年々増加傾向にあるという。
海外に限らず、旅行者が増えているのは大陸中国の国内旅行も同じことなのであるが、ひとつには高速鉄道や高速道路網の整備によって、交通の便が良くなった、ということもある。特に距離のわりに安価な高速鉄道の恩恵があげられるだろう。そのため大型連休など、ピーク時の宿泊施設のキャパシティがどこの観光地も不足気味なのである。そこで屯溪でも部屋を改装し、民宿を始める人が増えてきた。屯溪観光の中心である老街であるが、老街の住人で若い人は郊外にできた新しいマンションに居を構える傾向にある。空室になった古民居を改装し、宿泊業を営むのである。
昔から安価な宿泊施設としては”招待所”というところがあったのだが、招待所は基本、外国人は泊まることが出来ない。ちなみに宿泊施設の呼称としては、酒店、賓館がいわゆるホテルである。他に旅社、旅館、招待所があるが、民宿というのは最近見るようになった単語である。旅社や招待所は、そこしか宿が無いような小さな町でない限り、外国人は泊まれない、と考えた方がいいかもしれない。
大陸のホテルでも、外国人の宿泊が認可されているホテルと、されていないホテルがある。たとえば上海のような大都市でも、おなじビジネスホテルチェーンでも、認可の有無に違いがあるから注意が必要である。さらにいえば、個人、たとえば友人の家には泊まることが出来ない........という法律があったように記憶しているが、今でもそうであろうか。

その民宿は、まさにP小姐の実家から歩いて30秒かからない距離の、老街小巷の一隅にあった........が、若干の危惧を覚えなくもない。思い起こせば、初めて中国を一人で旅した時、揚州で知り合った地元の人に案内してもらった”招待所”のようなごく素朴な宿なのである。

玄関をあがって二階の部屋に通された.......うーむ、少々簡素であるが.......清掃は行き届いている感じがあるし、wifiも個室シャワーもある。どうせ寝るだけなのであるから、自身はこの部屋でも構わない。まあ、久しぶりに昔の貧乏大陸旅行を思い出しながらの夜も良いものである.......と思ったのであるが、彼女を伴ったD君はどうであろう。案の定、二人して難色を示している。D君一人であればこの部屋でも問題ないとしたであろうが、彼女に気を使っている様子。D君の彼女も別段気取ったところもなく、素朴でさばけた人なのであるが、せっかくの旅なのである。
P小姐は、D君が連れてくる友達が女性であるとは思っていなかったらしい。急いで近くの他の民宿を探してくれた。ほどなくして、この”招待所”から50歩あるくかどうかの距離に、別の民宿を見つけてくれたのである。今後の参考までに部屋を見せてもらうと、古民居の味を残しつつ、家具照明等等、モダンなしつらえである。なるほど、これなら悪くはないだろう。

さて、食事が終わって夜の11時くらいに宿に戻ったのであるが、休む前に水を買っておこうと思い立った。ところが玄関の扉が堅く閉ざされている.......外に出ることが出来ない。玄関でしばしば思案しているとこの宿の老板が出てきて、何か必要か?と聞く。水がほしいというとポットを持ってきてくれた。沸かせば飲める、ということらしい........外出したいというと、門限があるから明日にしなさい、という。これには少々閉口してしまう。
まあ、しいて外出したい用件があるわけでもないが、朝まで部屋を出られない、というのはやや窮屈なおもいを抱かざる得ない。防犯上の事であるからいかんともしがたいのであるが.........この部屋で一泊60元というのは、安価なのであるがその分制約もあることである。ともあれ、空調はきちんと稼働しているし、朝シャワーを浴びようとしてもちゃんとお湯が出たから問題は無い。1月の屯溪、とくに老街の朝夕はひどく冷えるのである。ひとつには石材を基礎とした建造物が、冷気をため込んでしまうからかもしれない。屋内で燃料を燃やすストーブを置いている家などほとんどないが、せめてエアコンの暖房が無いと過ごしきれない。地元の人はほとんど暖房の習慣が無く、夜は早々に布団にくるまって寝てしまうのであるが。

私が泊まったこの招待所、はたして外国人の宿泊が大丈夫なのか?疑問に思うような宿なのである。記帳もノートに名前とパスポート番号を書いておしまい、である。地元で近所のP小姐が保証人のようになっているから、これはこれで大丈夫なのかもしれない。
ひさしぶりに泊まった”招待所”には、一種のなつかしさを覚えたものであるが、次回はそう、もう少し雅味のある古民居風の宿を頼もうかと思う。
落款印01


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