揚州文物商店の硯

......揚州に行った際に、天寧寺近くの文物商店に立ち寄った。天寧寺は昔は揚州市博物館があった場所であるが、現在は博物館は郊外に移転している。その代わり、境内には古玩店が軒を連ねている。
大陸の博物館の近くというのは、場所柄、昔から骨董街になっている場合が多く、国営の文物商店もおおむねそこに位置しているものであった。しかし近年、新設の博物館が建設されるに及び、博物館と骨董街の位置関係も変わってきている。
この揚州の文物商店は、はじめて揚州を訪れた十数年前にもこの場所にあったものである。以来、行くたびに少しのぞいてはいるが、買った記憶があまりない。

ここの文物商店、硯や書画は長いこと二階にあったように記憶している。ところが今回、これらが1階に並べられている。また、硯と扇面などの小さめの書画の数量がだいぶん減っているようだ。
話を聞くと、北京から来た人が大量に硯や書画を買っていった、という事だ。むろん、一度にまとめ買いしたという事は、つけている値段よりもいくらか値引きをさせたのであろう。しかしこの数年間、揚州の文物商店では、少なくとも硯にはみるべきものがあったかどうか。
現在に限らないが、ここの硯や印材は”いい値段”をつけている。ザッと見ても数千元から数万元である。ちょっとした大きさの端溪硯が1万元を超えている。値札に10万、とある大硯が目に入る。10万円、ではなく、10万元、である。1元およそ17円で計算できるところだろうか。ここで数千元程度の硯は、十数年前であれば数百元がせいぜいのレベルである。まったく、資産インフレとは恐ろしいものである。

物価の高騰は仕方ないとしても、数千元、邦貨にして数万〜十数万円するのであれば、端溪であればせめて新老坑であってほしいものである。しかし、一見して老坑の端にもかかりそうな硯はただのひとつもない。歙州硯はまだしもとしても、端溪硯は端溪も怪しいような硯ばかりである。端溪石のような、紫ないしは赤味のかかった硯石というのは福州石や金沙江も含めて幾種類かある。それが粗悪な墨で黒ずんでいると、一見、端溪に見えない事も無いのである。こういった硯は、使い物になればまだいいのであるが、硯石としての性能もがっかりすることが多い。
無論、どういった硯が良いかというのはもちろん人の好みであろうけれど、それにしても、たしかにこの程度の硯がこの値段であれば、硯、特に端溪硯は日本で探したほうがはるかに安価である、とは言えるだろう。業者目線で逆に考えると、日本で硯を販売する事を考えた場合、大陸ではもはや仕入れにならない、という事でもある。作硯家に依頼すれば、新硯であっても古硯より高いくらいである。

日本のインターネットのオークションでも最近は端溪硯が多く出ているようで、中には老坑ないしは新老坑であろう硯も散見される。しかし困ったことに、老坑でない硯も老坑のような顔で出品されている、という実情がある。
実のところ(新)老坑か否かの弁別は、骨董を少し扱った程度の経験では十分に出来ないものなのであるが、その辺は等閑視されているようである。なので老坑であればたしかに割安かもしれないけれど、老坑でなければ高い買い物、のようなのが多いのが現状なのである。たまにこれは老坑ですか?という質問が来ることもあるのだが「実物をみないとわかりません。」と答えることにしている。老坑でない、という事までは写真だけでもかなりの確度で判別する自信はある。しかし確実に老坑ないし新老坑か?という事になると、それなりに高い値段がついているし、責任は取りかねる、というところである。

端渓硯の高騰ぶりを確認されるのであれば、揚州までいかなくても、上海に行く機会があれば南京東路の朶雲軒や福州路沿いの古玩城をご覧になっても良いかもしれない。北京は久しく見ていないが、値付けはそれ以上だという。もっとも、その価格で品物が動いているかどうかまではわからない。実際問題、大陸では今回はっきり「不景気」という言葉を耳にするようになった。しかし大陸の不動産の価格もそうであるが、しばし売れていないからと言って、値札を簡単に付け替えないのである。

これから値段があがるので、買うなら今のうちですよ、という事はあまり言いたくないものである。ただ、年々仕入れが厳しくなっている現実は、ご紹介する必要があると考えている。筆の価格などは、今までの筆匠の工賃が安すぎたという事もあり、致し方ない面もある。しかし、文房四寶全般の高騰は、おおむね大陸の資産インフレに引っ張られている面がある。当面継続するのかもしれない。
揚州文物商店や天寧寺の骨董街は、のぞいてみる分には面白いかもしれないが、ちょっと掘り出し物を、というわけにはいかないくらいの値段がついている。昔は地方都市の骨董街は、たとえば北京や上海あたりの古玩城と比べれば、比較的安価なものであった。情報化の影響であろうか、大都市と地方都市でも、骨董の相場はさまで変わらなくなってしまった。当面、硯などは日本で探すのが無難なのかもしれない。
落款印01


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