華強北電子市場の蒸菜店

深圳は華強北にある巨大な電子市場の中、お昼ご飯を食べようと思った。一人で行動していたので食事は簡単に済ませたい。大勢の人があつまる電子市場には、実際に飲食店が多数存在する。昼食の需要が最大であるためか、麺類やどんぶり等、軽食中心の店が多い。また弁当を売る店も多い。弁当といっても、中国の場合は出来あえの温かい惣菜を選んで、ごはんと一緒に弁当容器につめてもらうのである。
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しかし12時過ぎから食堂の類はどこも混雑している。午後1時をまわったあたり、混雑のピークを過ぎたころ合いに、電子デパートの一棟の六階にある食堂街をのぞいてみる.........行列の出来ている一角に懐かしい光景が........蒸し器の中の多数の小皿。湖南省は長沙で味わった、長沙蒸菜”である。

深圳は外省人の街である。つまりは広東省以外の地域から集まった人々が人口の大半を占めるのであるが、北方の人は少なく、長江流域、湖北、湖南、四川、広西、江西、福建などの人が多い。福建をのぞけば、およそこれらの地域の料理は辛いのである。辛い料理の雄といえば、湖南料理である。日本人が想起する辛い中国料理といえば四川料理かもしれないが、四川料理は辛さのなかにも様々な香辛料が加わる。しかし湖南料理はずっと直接的な、唐辛子の辣さである。この湖南料理は深圳の外省人の味覚における公約数なのか、実際に湖南料理の店は多い。
この”蒸菜”の店も、華北強の電子市場、すなわち深圳屈指のオフィス街には必須の種類の店なのであろう。一人の昼食には丁度いい店でもある。
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トレイをとって、学食よろしく列にならぶ。下からゆるく蒸気のあがる、四角いステンレス製の巨大な蒸し器の中に、小さな白い深皿にはいった料理が所狭しと積み重なっている。長沙では皿を指さして指示すると、従業員がハサミで皿をとってくれたものであるが、手で持つにはやや熱いからでもある。深圳のこの店では、さまで熱くないのか、自分でとるのである。皿は料理の汁や油脂で滑ることもあるので要注意である。ご飯も、陶器の深皿にすりきりで入って蒸された白飯である。たくさん食べたい人は、二皿のご飯をもってゆく。(ランチタイムから少し時間が過ぎると、陶器の蒸した白飯ではなく、普通に炊いたご飯が盛られる)
もっとも、トレイを持って料理を選んで、付近のテーブルで食べる人はそれほど多くない。ほとんどの人は料理を選んで、店員にテイクアウト用のランチボックスに入れてもらい、ビニール袋に下げて持って帰るのである。自分の店舗なりで食べるのだろう。
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”長沙蒸菜”は、湖南人の好みなのだろうが、辛い味付けの料理が多く、赤や緑色の生の唐辛子がふんだんに使われていた。これに黄色いコーンやニンジンのオレンジといった緑黄色野菜、あるいは淡い色合いのキノコ類やイモ類などの料理が加わり、目に鮮やかな印象が残っている。
対して、この深圳電子市場の”蒸菜”は、やはり地元の味の好みであろうか、はじめから辛い味付けの料理は少ない。色合いも若干地味である。よくみれば、湖南料理の特徴をもった料理は少なく、ごく一般的な広東の家常菜、のようである。長沙であればかならず一隅を占めている、赤唐辛子と青唐辛子の塩漬けのみじん切りを乗せた、淡水魚の頭の蒸し物「剁椒魚頭(トウジャオユイトウ)」がない。内陸の長沙とちがって、広州湾に臨む深圳らしく、小型のマナガツオの蒸し物である。またスープは、これも広東でよくみる、豚のスペアリブにクコなどの漢方薬をいれて蒸しあげたスープである。
日本だとマナガツオは高級魚の部類であるが、広州湾では小型のものが良く採れるのか、日本におけるアジ、のような位置づけで、わりと庶民の魚なのである。これを生姜とネギと一緒に蒸して醤油と香味油をかけた料理は、まったく広東の家常料理である。深圳の電子市場ともなれば、中国南西部のみならず、海外も含めていろいろな地域の人が集まるからだろう。野菜の小皿と、豆腐(油揚げや湯葉など)料理、それに一品くらいで充分である。
むろん、湖北や湖南、四川の人など、辛い料理を好む人も多くいる。大陸南西部の、農村の料理は概して辛い。辛い味が好きであれば、清算するレジの前に、真っ赤な辣醤が置いてある。好きなだけどうぞ、というわけである。
”蒸菜”は、食べたい分だけ料理を見ながら頼めるので、あまり現地語に詳しくない旅行者にも便利かもしれない。
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さて、こうした昼食をとる簡便な店も、今や携帯電話での決済が一般化している。またこのフード・コーナーは共通のプリペイドカードがあり、それにいくらかキャッシュをチャージして、決済時に支払っている人が多い。しかしいずれにせよ、短期滞在の外国人にはかえって不便である。実のところありがたいことに、現金での決済も可能なのである。さすがに深圳の電子市場、出張で来ている外国人も多いのであろう。
「現金決済が併用なのは当たり前では?」と言われるかもしれないが、さにあらず、である。少し大きなショッピングセンターの中にある、麺などの軽食を出す小さなテナント店では、オーダーも決済も、スマートフォンで”微信”という(日本のLINEのような)メッセージツールを使わないと、出来なくなっているところも多いのだ。いや、出来ない、といっても強いて言えば出来ることもあるのだが、なんとも面倒である。
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そういった店では、席についてからまずはバーコードを読み取り、その店の微信のアカウントを登録する。そして微信からメニューを開き、注文と決済を同時に行うのである。こうすると、小さな飲食店などでは、スタッフが注文を取りに来る必要もないし、清算時のレジを打つ必要もない。究極、人件費が削減できることであろう。ファストフードや、ファストフード化したチェーンの飲食店などは、こうした仕組みでも使わないと、回らないのかもしれない。
実際に、宿泊したシェアハウスの近くのショッピングセンターの地下で、昼食でひとりで麺を食べようとしたところ、これが微信を使わないと注文も出来ない店なのである。微信は持っているが、あいにくまだ決済機能の”微信支付”の準備がない。登録するには、引き落とす銀行口座の登録が必要なのである。中国人民銀行の口座はあるにはあるが、口座に登録した電話番号が必要なのであった。昔の携帯番号は長いこと使わない間に廃止されてしまったので、登録を終えることが出来ない........というわけで、10元ほどの麺ひとつ、食べられないのであった。
おもえばその昔、大陸を初めて旅した時などは、庶民的な店で簡単に食べようにも、言葉も今よりはるかに未熟であったし、注文の要領がわからなくてずいぶん難儀したものである。往時よりもはるかに便利になった現在に、ふたたび難儀しようとは、これは想像の埒外である。もちろん”微信支付”の登録を完了すれば、むしろ簡単に食事がとれるかもしれない。しかしいかんせん、短期滞在の外国人がこのシステムから疎外されていること、はなはだしいと思うのは自儘というものであろうか。
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10年位前は、小さな飲食店などは、地方から来た若いスタッフが大勢で切り盛りしていたものである。ところが現在は、人件費の高騰、さらに不動産の暴騰のために、スタッフ用の住居の確保もままならなくなってきている、という現実がある。
こうなってくると、都市部の飲食店は、ある程度の規模の資本力のあるチェーンや、フランチャイズの飲食店ばかりが増えてくる。たしかにある種の清潔感はあるし、味も悪いわけではない。しかしおしなべて大味で、個性がないのはいかんともしがたい。あの街に行ったらあの店に行こう、というような、惹きつける魅力には乏しいのである。それは、日本でも大手資本の巨大ショッピング・モールなどでもみられる光景かもしれない。資産インフレが昂進すると、こうしたつまらないことが起こってくるのである。
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実のところ、この”蒸菜”の店はむかし経験した”長沙蒸菜”というよりは、広東の家庭料理の”蒸菜”だったわけであるが、利用しやすいので電子市場を歩いた日の昼食は毎回ここにしていた。値段も、スープと魚料理をつけても、300円しないくらいである。”長沙蒸菜”ほどの料理のバラエティはなかったものの、辛くないので食べやすい。おしなべて平凡な味付けの”家常菜(家庭料理)”であるが、もちろん、華強北の電子市場は食に期待してゆくところではないのである。
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