随州告急

騰訊新聞「新型冠状病毒肺炎・疫情実時追跡」で、一応は公式発表としての新型肺炎の感染情報が閲覧できる。

これによると2月7日現在、中国全土で感染が確認された患者数が前日から3163人増えて「31223人」感染が疑われる疑似病例が前日から4833人増えて「26359人」、治癒した患者が「1586人」、死亡者が「637人」となっている。まさに今世紀に限って言えば、未曾有の事態であるといえるだろう。
先月25日に「武漢封城」を掲載した際には、現場の医療関係者と思われる人々の間で交わされたと思われる、1月22日のタイムスタンプのついたSNSの発信情報を参照した。その会話内容では感染者は政府発表(当時400人)よりも二桁多い「四万人」と推定されていた。
感染が確定した患者数だけでも、おそらくはその時点での推定を上回るのは必至の情勢である。

湖北省、特に感染源とされる武漢市の状況はおそらく他の地域とは比較にならない事態にあると考えられる。武漢現地は病院も医師も看護士も足りないどころか、マスクや防護服などの医療用品の供給も不足し、したがって診断も治療も追い付いていない。
ゆえに感染者の総数について明らかになるまでは相当な時間を要すると考えられるのだが、かなり控えめな推測でも武漢市だけで少なくとも10万人、多くは25万人の感染者が存在する、という声がある。
新型肺炎による死者も正確にはカウントできていない。死者数に関する規模感は、後に武漢市の人口統計から推測するしかないのではないだろうか。
先日「随州封城」を掲載した時点で、深圳在住の朋友等が帰省した湖北省随州市には30名程度の感染者が発見されていたが、2月7日現在は915人にのぼり、死者は9人を数えている。
湖北省全体の統計でみると、感染患者数が11618人の武漢市、2141人の孝感市、1897人の黄岡市についで、随州の915人は四番目に多い。武漢市は別格としても、2番目に感染者の多い孝感市の人口は490万人、3番目の黄岡市は人口630万人に対して、随州は人口220万人である。行政区としては湖北省に12ある「地級市」の中では随州はもっとも人口が少ないのであるが、その随州の患者数は四番目に多く、すなわち武漢に次いで多い感染率である。
無論、湖北省における各都市各地域に感染者が多く分布するのは、武漢市内から帰省した人々が湖北省内に分散したためである。先日の武漢市長の発表では、武漢市内に900万人が残留し、500万人が武漢市内を出た、という事である。この500万人のうちの大半は湖北省の各地域に帰省し、さらにすくなからぬ人数が大陸全土、あるいは海外にまで分散したと考えられる。
残留者900万人にたいして武漢から離脱した人数が500万とすると、併せて1400万人である。武漢の戸籍人口は1000万、住民は1200万であるから、200万人は短期滞在者や武漢市を出入りした延べ人数の事であろう。武漢が交通の要衝たるゆえんであろう。
今年の旧正月は1月25日からであるから、武漢や随州が「封城」された時点では旧暦における「大晦日」であり、家族親戚そろって年越しの晩餐を過ごすのが習慣である。その晩餐の席で武漢市から帰省した者からの二次感染もあったであろう。そもそも、ほぼ帰省の大移動が終わってからの交通封鎖は遅きに失していた感は免れない。
あるいは圧倒的に病院の足りない武漢の状況を考えると、あえて帰省を許して感染者を分散させたのか?という疑念も残る。もし大多数が離れる前に武漢を封鎖していれば、武漢は今現在以上に過酷な状況になったのかもしれない。
大陸では1月の初めからがいわゆる年の瀬であり、忘年会等の行事も行われ、また年越しの買い物で各地の市場はごった返す。いうなれば年末のアメ横のような光景が武漢の市場や商店でみられたのであり、また大陸の宴会はたいていは個室の円卓を囲んで行われる。酒宴の後は個室のカラオケである。およそ大陸中国人であれば常識的にわかっている状況が見えていたにも関わらず、武漢市や中国政府当局の初期の対応はあまりにも疎漏に過ぎたといわざるを得ない。

大陸は旧正月には「拝年」という、各家庭を互いに訪問する年始参りの習慣があるが、今年は全国的に自粛されている。しかしあえて厳しい言い方をすれば「手遅れ」だったのではないだろうか。
確認される感染者が31253人、そのうち湖北省が22112人とすると、9000人程度が湖北省以外の地域に分散していることになる。しかし死者の総数637人のうち、湖北省だけで618人である。すなわち湖北省以外の地域での1万人あまりの感染者の間での死亡率はさほど高いものではない。湖北省以外の地域では患者数に対して医療機関の物量人員がまだ対応可能であり、適切な治療によって死亡率が低く抑えられているのであろう。
治癒者の総数は1640人であるが、湖北省全体の治癒者は840人である。およそ三分の二の患者を抱える湖北省の治癒者が全体の半数に過ぎないという事は、やはり湖北省の医療設備や人員、物資が不足しているという事を意味しているだろう。
もっともこれは公式発表を信じたうえでの推測である。おそらく、武漢市以外の地域の数値に関しては、ある程度の信頼を置いてもよいのではないだろうか。しかし武漢市に限って言えば感染患者の総数や志望者は依然不明確であり、現実の実際とはおそらくは桁を外れた差異があることが予想されるのである。

随州に話を戻すと、朋友の話では幸い随州は郊外に農村が多く、食糧品の供給には事欠かないという。しかし外出は厳格に制限される。大陸のマンション群はたいていは「小区」というエリアに区分されているのであるが、「小区」の入り口で保安要員に体温をチェックされ、発熱していないことが確認されてから初めて出入りできるのである。これはショッピングセンターやスーパーマーケットの入り口でも同じ措置が取られるのだという。
今のところ幸いに朋友家族に感染者は出ていないが、同じ「小区」から1名の感染患者が出たという事である。しかしその家族にはまだ感染者が確認されていないという事だ。

前述したように、随州は人口比で武漢に次ぐ感染患者が確認されており、すでに医療機関のキャパシティを超えそうな勢いであるという。随州市には「湖北省随州中心医院」が唯一の「国家三級甲等総合病院(最高格付けの総合病院)」であり、この病院が新型肺炎に対応する指定病院となっている。
現在中国各地から陸続と応援の医師看護士が湖北省に向かっているが、当然のことながら大半は武漢に集中して投入され、随州にはわずかに内蒙古から四名の医師が派遣されただけであるという。医療物資も不足し、現場では緊迫した状況が続いているという。

随州ではないが、大陸のほかの地域もほぼ交通が規制された状況にある。たびたび訪れている黄山市の朋友からも、マスクを送ってほしいという連絡が来た。安徽省は全体で665人の感染患者が確認されており、うち黄山市では9名の患者がいるという。湖北省の状況に比べればまだしもであるが、マスクなどの医療品は払底している。そこで少量ではあるが確保したマスクをEMSで送ろうと郵便局に行ったのであるが郵便局員さんが言うには「現在関空はマスクなどの荷物が多すぎて大渋滞中なので、しばらくしてから送った方が良い。」という事である。
ひとつには大陸中国では各企業が新型肺炎の蔓延をうけて春節明けの操業開始を2月9日から10日に延長しているため、物流、輸送も滞っているという事情もあるだろう。日本から中国側に届いても、中国側でもさばき切れていない可能性がある。また中国側通関をパスしても、その後の輸送がどうなるかはまったく不透明だ。
先日、京都の旅行会社につとめる友人から聞いたところでは、個々人が日本から送ったマスクも中国側ですべて強制的に開封、没収されて政府当局によって管理されている、という話である。ゆえに個人的な支援は届く見込みがない、ということだ。それほど大陸中国では医療品の欠乏が切迫している。

大陸中国の報道では、中国でのマスクの年間生産量は50億個であるという。日本の年間生産量を調べたら2018年の時点で55億個、というデータがすぐに見つかった。という事は日本のマスクの年間生産量と中国のそれがほぼ同じ、という事になる。日本でマスクの生産量ないし消費量が多いのは、花粉症の需要も相当量あるからだろう。
しかし日本のメーカーでも中国でマスクを委託生産しているところもあるから、中国の総生産のうち、どれほどが本来中国国内の需要分なのだろうか。なんにせよ、仮に10億人が毎日マスクを1個使い捨てにしていたら、10日で日本と中国の年間生産量のマスクが消費されてしまうことになる。それは仮定の話であるが、現実に大陸中国の最前線の医療機関でも防護服はおろかマスクが欠乏しているのである。本来は日本のメーカーが中国の工場に生産を委託していた分も中国政府の要請で中国国内向けに回されている。また日本の国産マスク工場は24時間フル稼働でマスクを量産しているという。それでも目下、大陸、特に湖北省や武漢では充足しているという話は聞かない。

そういう意味ではやっと入手して黄山市の朋友に送ろうとしていたわずかばかりの”DS2”規格の日本製マスクも、随州なりの大陸の医療機関で日夜苦闘を続ける医師や看護師に送りたい気持ちもあるのだが、確実に届く手段が今のところは見えない。
日本の薬局、ドラッグストア、コンビニからもマスクが消えた。もっとも新型肺炎の予防にはマスクよりも手洗いうがいが有効であるという。それはそうだろう。
日本ではまずしないが、大陸の生活習慣上の懸念としては、外履きのまま部屋にあがるというものがある。これも現在は外履きの靴は屋外に置くことが推奨されている。

日本の感染状況も予断を許さないものがあるが、今世紀に入って未曾有の大災害である。初動の問題など多分に人災の面が否定できないが、災害の規模でいえば2008年の四川省汶川の大震災に匹敵するものがある。日本は日本で国内での感染拡大を厳格に予防しつつ、余力があれば大陸中国、特に武漢市や湖北省への支援も行ってゆかなければならないだろう。早期に収束しなければ、中国のみならず東アジアと世界経済にもすくなからぬ影響が出るのは確実である。
そしてもし要路にあたる方がこの拙文をお読みいただいたのであれば、湖北省の随州という街の事も、気にかけていただければ幸いである。
落款印01


calendar

S M T W T F S
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930    
<< June 2020 >>

selected entries

categories

archives

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM