随州の桜

湖北省の随州市。封鎖が解かれる数日前の3月9日、まだ外出禁止が敷かれていたころである。深圳から帰省した朋友は両親と自身の息子、また妹の家族五人で実家マンションに閉じ込められていたのであるが、一階の並木に桜が咲いたという。いくら何でも早いのではないか?と思ったのであるが、送られてきた写真を見る限り確かにソメイヨシノが咲いている。
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随州は武漢から襄陽に至る、ちょうど中間に位置している地方都市である。夏暑く冬は雪が降るほど寒くなるが、考えてみれば鹿児島と同じ程度の緯度であるから日本の近畿関東などよりは桜の開花時期は早いだろう。
もっとも、この当時は自室の玄関から原則一歩も出られない厳しい制限が敷かれていたから、写真はベランダに出て眼下の桜を撮影している。せっかくの桜をまじかで見られないのが残念だ、とこぼしていたが、その四日後の3月13日には小区と呼ばれるマンションエリア内の敷地には出ることが可能になり、近くから撮影した桜の写真を送ってくれた。さらにその二日後の3月15日には外出禁止令が解かれたという。
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3月23日には江西省贛州からの医療応援隊を随州市民が沿道総出で見送ったのである。その写真を見て、せっかく感染拡大が収束したにもかかわらず、このように大勢で送別するのはどうであろう?と思ったのであるが、朋友曰く「大丈夫、沿道の人々はみなマスクを着けています。」という。拡大してよく見ると、なるほどマスクを着けていない人はない。外出禁止は解かれたが、マスクをつけなければならない規則は継続しているという事だ。
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ところでこの随州の朋友の妹は若くしてなかなかのやり手であり、工場における検査治具をつくる会社を経営している。その顧客のうちの一社に、医療用マスクを製造する工場があるという事だった。それで朋友姉妹は深圳から湖北省に帰省する際にもかなりの量のマスクを持ち帰っていたので、政府による配給に頼らずとも一家がマスク不足に陥ることはなかったという。

その朋友が10日ほど前の3月17日「マスクを買わないか?」と打診してきた。日本でもマスクをなかなか購入できなくなって久しいが、自分用の分はある程度は確保している。安徽の朋友に送ってくれと頼まれていて、EMSの混雑ならびに大陸中国のマスクの流通制限によって、結局送ることが出来ないままになってマスクもある。
ゆえに当面、個人的にはマスクが足りないという事はないのであるが、熱心に進められるので付き合い半分で購入することにした。値段を聞くと、1枚2.15元だという。朋友曰く、これは工場出荷価格なのだそうだ。
1元を15.5元で計算すると1枚33円ほどである。50枚入りのパッケージで1666円である。こういった箱入りのマスクは、コロナウイルスが蔓延する以前は、ドラッグストアで1箱498円で買えたものである。それが工場出荷価格の時点で3倍以上になっている。

ちょっとうがった見方をすれば、この朋友がいくらかマージンを乗せているとかキックバックをもらっていると考えるかもしれない。ただ今までの付き合い上、個人的に信じるところでは、そういう細かい商売はしない人物である。また私は別段マスクを商っている人間ではないから量を買うとも向こうは思っていない。別口では数万単位でオーダーを受けているという。むろん、この朋友も普段はマスクなど扱ってない。電子部品の商社を経営しているのであるが、今は臨時で工場からオファーがあるのだという。
しかしこんなに高いのはどういう事情かと行くと、原材料の不織繊がコロナウイルス流行以前は1トン2万元であったのが、ピークで60万元まで高騰したという。それが若干おちついて50万元になっている、という事だ。
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マスクをみると、口元を覆う部分は機械で製造されるのだろう。おそらくは耳にかける紐の部分が、熱圧着などで人の手がかけられているのであろう。なので製造原価のほとんどは材料費のはずであり、それが25倍〜30倍まで高騰してしまうと、単価の上昇もやむを得ないのかもしれない。
朋友は何やら大量に購入して欲しいようで「最大で何枚買えますか?」と聞くのであるが、以前の3倍の値段のものを大量にさばく自信はないし、周辺で会社や工場を経営している人に聞いても当面間に合っている、という事である。何枚くらい買えるのか?と聞くと「60万枚。」という。さすがにそんなに買っても仕方がないので、最低ロットの2,000枚を付き合いで買う事にした。50枚入りのパッケージで40箱が、ちょうど段ボール一箱分である。

少しインターネットで値段を調べてみると、在庫があるとは限らないが、似たようなマスクが日本では安いところで2000円を切るくらいで販売している。こういったところは直接仕入れて薄利多売で売っているのだろう。他に4000円近い販売価格のところもあるが、工場出荷価格を考えれば、通常の卸しから小売りルートに載せれば、それくらいの値段になってしまうのだろう。

一応、”BFE99%以上”というのは、性能的には病院で普通に使えるレベルのマスクなのだそうだ。ちなみに感染患者と直接接するにはN95という規格が必要であるし、外科手術用のマスクはまた別であるという。要は一般病棟で使えるレベル、ということだろう。
しかし日本は医療用のマスクとして輸入する場合はPDMAという認証資格を持っていないと輸入は出来ない。むろん、そんな資格は持っていない。だから単にBFE99%とだけ書いた箱に詰めて送られ来るのである。
ちなみにアメリカに医療用のマスクとして輸出する場合は工場がFDA認証を持っていなければならない。輸出する国の医療関係の法律によってさまざまな規制や認証があるのだという。
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届いたマスクの品質や使用感を見る限り、使い捨てマスクとしては特に問題はなさそうである。そこで昨日、追加で買えるか?と聞いたのであるが「買える事は買えるが、価格は3.2元になった。」という。わずか一週間で五割増しのアップである。1個50円を超えるのはさすがに高い。50枚入りのパッケージで2500円を越えるのである。
しかしこの原因は言うまでもなくこの一週間で欧州とアメリカで感染患者が激増したことにある。すでにマスクは各国で奪い合いの情況で、特に医療用のN95規格のマスクはお金があっても買うことが出来ないのだという。
察するに3月17日時点で大量に購入を打診してきたときは、武漢を除く湖北省のほとんどの地域で封鎖が解かれ、一時的にマスクの需要が低減したのであろう。それがその後1週間に満たない間にアメリカやヨーロッパの情勢の急激な悪化で再び切迫した状況に変換した、と考えられる。
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幾分うがった見方をすれば、世界規模のでのコロナウイルスとの戦いの中で、今やマスクを初めとする医療用品や医療器材は第二次世界大戦における武器弾薬と同じであり、戦略物資でもある。
大陸中国では生産などの経済活動が徐々に回復しているとはいえ、厳しい封鎖が経済に与えるダメージは日に日に明らかになってゆくであろう。また欧州やアメリカなどの主要な市場が封鎖され、世界的に経済活動が劇的に鈍化している中で、通常の工業製品の需要は大幅に落ち込んでいるであろう。非公式の統計では失業率は6%を超えているという。
マスクの製造作業は原材料の不織繊さえあれば簡単なものであるから、工員を募集し、急速に製造ラインを増やすことも可能であろう。マスクの製造は、ひとつには雇用対策、ひとつには外貨獲得のための重点国策産業になっていると考えられる。
中国が武漢をはじめ大陸全土を封鎖していた期間、製造されるマスクはほぼすべて中国政府が買い上げ、必要な現場へ配給されていたのである。これはまさに社会主義的な統制経済の在り方である。それが大陸の封鎖が解かれ、海外へ輸出する段になるや、市場原理による原材料の価格高騰が直接反映されているのにはいささか閉口したくなる。

背後の事情はともかく、現場によって必要なものは必要なのであるから、これらマスクも必要な場所へ行き渡ることが望まれる。
日本は現在、欧州やアメリカからの帰国者に由来する感染の第二波の中にある。東京をはじめ、大都市に限らず「不要不急の外出」は自粛することが望まれる。せっかくの桜の季節ではあるが、西日本はあいにくの天候なのは「天の声」であろうか。
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