香港芸術館の端溪硯

最後の経由地、香港で少し時間が余ったので、香港芸術館を訪問した。ここは常設展示で虚白斎収蔵の良い作品が観られるので毎回楽しみにしているのだが、生憎今回は企画展の現代美術の展示が入っていて、書画を観ることが出来なかった。陶磁器は観ることができる。ここの陶磁器も悪くは無いのだが、どうもこのときは焼き物を見る気分ではなく、心に入ってこない。清朝の粉彩中心の展示は、いかにも大陸の観光客の趣向に迎合した観がある。小さな硯が1面展示されており、他に筆筒が何点かあったのが収穫であったか。
ここ2週間ちょっと、上海を起点に広東、湖南とめぐってきて、俗悪なモノには食傷気味だったところである。書画でなく陶磁器なら、さほど名品でなくてもいいから、出土品でもいいから、唐なり宋なりの質朴で優美なモノが観たかったところだ。粉彩がわるいわけではないが、この時の気分にはそぐわなかった。
入館料は10HKD(130円)くらいなので、観たいものがなければ足早に出てしまう。それでも1階の香港芸術館内の書店を少し覗いて行こうと考えた。図録や美術書は重たいので買うかどうかは別として、ここは良い本がそろっているので少し覗きたくなる。
ところが本を置いているスペースが大幅に減り、代わって書画や文房四寶が展示されている。画......とみると、特定作家の山水画が何枚も展示されている。価格がついているものもある。また価格は要連絡となっている作品もある。販売されているようだ。この傅抱石の山水を部分拡大して雑にしたようなその画風.......作家の名前に見覚えがある。
先月のいつだったか、香港で開催された北京保利のオークション会場で、間違って作品がゴミとして処分されたかもしれないとかなんとかいう、あの某氏である。聞いた時からなんだかたいそうに胡散臭い話だなあ、と思っていた。なんせオークションの主催はあの悪名高き北京保利である。この作家の作品のトップの落札価格は1億8400万香港ドル(25億円くらい)で、ゴミになったと言われる画は2880万香港ドル(3億8千万円)という。こうなってくるともう、”バブル”というより”量的緩和価格”とでもいおうか。濫作しやすい画風で、これから何百枚描けるかわからない存命作家の作品としては”付け過ぎ”としか言いようがない。しかし”ゴミ箱行き”というのがなんとも、その後のこれらの画、しいては書画市場全般の運命を暗示しているかのようでもあり、仮に話題作りとしてもセンスのない話である。
しかもそのニュースの切り抜きをカラーコピーして、これみよがしにおいてある。香港のちいさな飲食店では、紹介された雑誌の切り抜きを壁にベタベタ貼ってある。中には日本の雑誌の抜粋も珍しくない。それはそれで、小さな庶民のお店を一生懸命繁盛させようとしている意気も伝わってくるのであるが、あるいはそれと同じ感覚なのかもしれないが、香港を代表する美術館、そこへもって億円単位の作品を書く作家の作品の売り場にしては、これはなんとも品位の無い話である。
画はもうどうでも良いので、硯の方に目をやる。置いている硯はすべて端溪硯で、端溪の作硯家の新しい硯ばかりである。無論、大きいばかりで、材といい作行といい、良い硯などただのひとつもない。話のタネに写真を撮ろうとしたら、店員さんに「写真を撮らないでください。」とやんわりと制止されてしまった。本気で売る気があるなら、写真を撮るくらいは大目に見るべきなのだが.......それにしても唖然とするような新硯に、茫然とするような価格がついている。一番大きな硯に、百四十万香港ドルの値段がついていた時は、本気でゼロを数え間違えていないか勘定してしまった。控えめに言ってもゼロを3つくらい削り取ったほうが良いのでは?と余計な事を考えてしまう。端溪硯が高騰しているのは事実であるが、鑑別がまだまだ甘いということか。もっとも硯を”置物”にする向きには、材質などはどうでもいいことなのかもしれないが。

文房四寶だけに墨も筆もおいていたが、もちろん観るべきものは無い。墨汁は北京一得閣、墨は胡開文、すべて今出来で良い品ではない。画宣紙はなし。もっとも、もともと書画や文房四寶が専門でも何でもないこの書店で、いろいろ置いたところで店員が対応できないだろう。香港で筆墨を買うなら中環の文聯荘に言った方が良い。
それにしても香港芸術館の品位も落ちたものだと、今回はやや憮然となった。
落款印01


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