長江の遭難事故

長江で痛ましい事故が起きた。

長江というと、揚州〜鎮江間を何度か船で往来しているから、あながち他人事とも思えないのであるが、今回の事故ははるか上流の荊州である。小生もいつか行きたいと考えている、赤壁などをめぐるツアーだったのかと思うと、やはり気の毒でならない。
車ごと船で長江をわたるとき、舷側では褐色の奔流が渦巻いているのであるが、落ちたらとても発見してはもらえないだろうと、いつも思う。
長江は下流は瀬戸内海以上の川幅があるが、遠目には湖面のように穏やかであるが、実は結構流れが速い。しかも濁流である。昨年の韓国沖合の悲惨な事故も、現場は透明度が低く、しかも海流がとても速い海域であったことを想起すると、今回の長江での事故も救出作業の難しさがうかがえる。
割と河岸に近い場所での事故であるが、大型重機が入れるような足場は組みにくいだろうし、浅瀬であれば作業船が入れるかどうかもわからない。2000トン以上もある船体をどうにか動かして救出する、というのは工学的にも非常に困難であろう。

事故原因は「竜巻」であったというが、事実現地は暴風雨で、この暴風雨が東進して昨日は上海が荒天に見舞われている。船長が証言しているような「竜巻」が本当に発生していたかどうかはともかくとして、しかしそんな暴風雨下の航行に危険を感じなかったのかどうか.......事故現場の大馬洲水道は、三峡ダムの建設後、土砂の堆積と浸食によって河床の形状が不安定になっている、という話もある。突風が原因の可能性もあるが、暗礁に乗り上げたとも考えられる。

今回の事故現場には李克強首相が急派されて、陣頭指揮にあたっているという。韓国の船舶事故は政界をも揺るがす大事故、事件であり、大陸政府としてはこれに比較されることを恐れている、という見方もあるようだ。が、韓国の事故があってもなくても、大陸政府にとってはこの事故の救出に威信をかけざる得ないところである。なんといっても、転覆した船の名前が「東方之星」である。
「東方之星」が何を指すかといえば、現在の中国の国旗を見れば一目瞭然のように、これに象徴されるところは共産党、すなわち国家であったり、より直接的には毛沢東であったりする。

「東方紅」という、毛沢東と中国共産党をたたえる歌曲があり、かつては国歌同然にうたわれた。その歌詞に「太陽昇、中国出了个毛沢東(略) 他是人民大救星」とある。「東方紅」というのは明け方の空の暁色であり、そこに大きな星が輝く、というイメージである........いうなれば「東方之星」というのは日本の国旗を「日の丸」と別称するがごとく、説明しなくても何のことだか、大陸の人ならだれでもわかるのである。なのでこの船の名前だけではなく、いろいろな施設や事柄の名称に「東方之星」はみられるのである。

その「東方之星」が「転覆」、という事故で暗示される事態を考えれば、この事故についてすでに厳重な報道管制が敷かれているのもわからなくはない。大陸の政治がこの種の「表徴」に非常に敏感なのは、まさに大陸政治の「伝統」なのであるが、その感覚は現代の日本人には理解しにくいかもしれない。だから首相がすべての公務をキャンセルして現地に向かうにも、充分な理由がある。
人命がかかった事故の際に国家の威信云々というのは不謹慎なようであるが、それはたぶん日本人に多い感覚であり、(他人の)命より面子が大事、という大陸の政治指導者(に限らないが)の性格ではないのである。

ところで経済専門の首相が具体的な指示を出せるわけではないから、陣頭指揮というより督戦であろう。逆に考えれば、このような事態に首相自ら督戦しなければならない、ということでもある。日本ならまず現場は都道府県知事か副知事か当局責任者だけだろう。何日か後に官房長官あたりも動くかもしれないが......事故の翌日に李首相が現地入りである......つまりは政治的にはほとんど最優先事項、ということを示している。また現在の大陸の行政機構では、動員される関係各局の連絡連携に、湖北省のトップくらいではどうにもならない、ということなのかもしれない。
しかしどんな事故でもそうだが、現場を知らない偉い人が乗り込んできたところで、そのことで現場が混乱しなければまだ良い方なのである。感情的に現場の人間を怒鳴りつけるのは最悪である。その点、監督と調整に徹している李克強首相は、震災原発事故当時の日本の首相や、客船事故の際の韓国の大統領の対応よりはだいぶん良いようである。

ともあれ一刻も早く、一人でも多く救出されてほしいものである。

追記:6月5日の今日、思ったより早く船体の引き上げに成功したようだ。船内捜索のあとは航行可能な状態に修復したうえで、船名をかえて再び就航させるのではないだろうか。一種の政治的儀式として。
落款印01


calendar

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
<< February 2020 >>

selected entries

categories

archives

profile

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM