随州の桜

湖北省の随州市。封鎖が解かれる数日前の3月9日、まだ外出禁止が敷かれていたころである。深圳から帰省した朋友は両親と自身の息子、また妹の家族五人で実家マンションに閉じ込められていたのであるが、一階の並木に桜が咲いたという。いくら何でも早いのではないか?と思ったのであるが、送られてきた写真を見る限り確かにソメイヨシノが咲いている。
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随州は武漢から襄陽に至る、ちょうど中間に位置している地方都市である。夏暑く冬は雪が降るほど寒くなるが、考えてみれば鹿児島と同じ程度の緯度であるから日本の近畿関東などよりは桜の開花時期は早いだろう。
もっとも、この当時は自室の玄関から原則一歩も出られない厳しい制限が敷かれていたから、写真はベランダに出て眼下の桜を撮影している。せっかくの桜をまじかで見られないのが残念だ、とこぼしていたが、その四日後の3月13日には小区と呼ばれるマンションエリア内の敷地には出ることが可能になり、近くから撮影した桜の写真を送ってくれた。さらにその二日後の3月15日には外出禁止令が解かれたという。
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3月23日には江西省贛州からの医療応援隊を随州市民が沿道総出で見送ったのである。その写真を見て、せっかく感染拡大が収束したにもかかわらず、このように大勢で送別するのはどうであろう?と思ったのであるが、朋友曰く「大丈夫、沿道の人々はみなマスクを着けています。」という。拡大してよく見ると、なるほどマスクを着けていない人はない。外出禁止は解かれたが、マスクをつけなければならない規則は継続しているという事だ。
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ところでこの随州の朋友の妹は若くしてなかなかのやり手であり、工場における検査治具をつくる会社を経営している。その顧客のうちの一社に、医療用マスクを製造する工場があるという事だった。それで朋友姉妹は深圳から湖北省に帰省する際にもかなりの量のマスクを持ち帰っていたので、政府による配給に頼らずとも一家がマスク不足に陥ることはなかったという。

その朋友が10日ほど前の3月17日「マスクを買わないか?」と打診してきた。日本でもマスクをなかなか購入できなくなって久しいが、自分用の分はある程度は確保している。安徽の朋友に送ってくれと頼まれていて、EMSの混雑ならびに大陸中国のマスクの流通制限によって、結局送ることが出来ないままになってマスクもある。
ゆえに当面、個人的にはマスクが足りないという事はないのであるが、熱心に進められるので付き合い半分で購入することにした。値段を聞くと、1枚2.15元だという。朋友曰く、これは工場出荷価格なのだそうだ。
1元を15.5元で計算すると1枚33円ほどである。50枚入りのパッケージで1666円である。こういった箱入りのマスクは、コロナウイルスが蔓延する以前は、ドラッグストアで1箱498円で買えたものである。それが工場出荷価格の時点で3倍以上になっている。

ちょっとうがった見方をすれば、この朋友がいくらかマージンを乗せているとかキックバックをもらっていると考えるかもしれない。ただ今までの付き合い上、個人的に信じるところでは、そういう細かい商売はしない人物である。また私は別段マスクを商っている人間ではないから量を買うとも向こうは思っていない。別口では数万単位でオーダーを受けているという。むろん、この朋友も普段はマスクなど扱ってない。電子部品の商社を経営しているのであるが、今は臨時で工場からオファーがあるのだという。
しかしこんなに高いのはどういう事情かと行くと、原材料の不織繊がコロナウイルス流行以前は1トン2万元であったのが、ピークで60万元まで高騰したという。それが若干おちついて50万元になっている、という事だ。
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マスクをみると、口元を覆う部分は機械で製造されるのだろう。おそらくは耳にかける紐の部分が、熱圧着などで人の手がかけられているのであろう。なので製造原価のほとんどは材料費のはずであり、それが25倍〜30倍まで高騰してしまうと、単価の上昇もやむを得ないのかもしれない。
朋友は何やら大量に購入して欲しいようで「最大で何枚買えますか?」と聞くのであるが、以前の3倍の値段のものを大量にさばく自信はないし、周辺で会社や工場を経営している人に聞いても当面間に合っている、という事である。何枚くらい買えるのか?と聞くと「60万枚。」という。さすがにそんなに買っても仕方がないので、最低ロットの2,000枚を付き合いで買う事にした。50枚入りのパッケージで40箱が、ちょうど段ボール一箱分である。

少しインターネットで値段を調べてみると、在庫があるとは限らないが、似たようなマスクが日本では安いところで2000円を切るくらいで販売している。こういったところは直接仕入れて薄利多売で売っているのだろう。他に4000円近い販売価格のところもあるが、工場出荷価格を考えれば、通常の卸しから小売りルートに載せれば、それくらいの値段になってしまうのだろう。

一応、”BFE99%以上”というのは、性能的には病院で普通に使えるレベルのマスクなのだそうだ。ちなみに感染患者と直接接するにはN95という規格が必要であるし、外科手術用のマスクはまた別であるという。要は一般病棟で使えるレベル、ということだろう。
しかし日本は医療用のマスクとして輸入する場合はPDMAという認証資格を持っていないと輸入は出来ない。むろん、そんな資格は持っていない。だから単にBFE99%とだけ書いた箱に詰めて送られ来るのである。
ちなみにアメリカに医療用のマスクとして輸出する場合は工場がFDA認証を持っていなければならない。輸出する国の医療関係の法律によってさまざまな規制や認証があるのだという。
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届いたマスクの品質や使用感を見る限り、使い捨てマスクとしては特に問題はなさそうである。そこで昨日、追加で買えるか?と聞いたのであるが「買える事は買えるが、価格は3.2元になった。」という。わずか一週間で五割増しのアップである。1個50円を超えるのはさすがに高い。50枚入りのパッケージで2500円を越えるのである。
しかしこの原因は言うまでもなくこの一週間で欧州とアメリカで感染患者が激増したことにある。すでにマスクは各国で奪い合いの情況で、特に医療用のN95規格のマスクはお金があっても買うことが出来ないのだという。
察するに3月17日時点で大量に購入を打診してきたときは、武漢を除く湖北省のほとんどの地域で封鎖が解かれ、一時的にマスクの需要が低減したのであろう。それがその後1週間に満たない間にアメリカやヨーロッパの情勢の急激な悪化で再び切迫した状況に変換した、と考えられる。
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幾分うがった見方をすれば、世界規模のでのコロナウイルスとの戦いの中で、今やマスクを初めとする医療用品や医療器材は第二次世界大戦における武器弾薬と同じであり、戦略物資でもある。
大陸中国では生産などの経済活動が徐々に回復しているとはいえ、厳しい封鎖が経済に与えるダメージは日に日に明らかになってゆくであろう。また欧州やアメリカなどの主要な市場が封鎖され、世界的に経済活動が劇的に鈍化している中で、通常の工業製品の需要は大幅に落ち込んでいるであろう。非公式の統計では失業率は6%を超えているという。
マスクの製造作業は原材料の不織繊さえあれば簡単なものであるから、工員を募集し、急速に製造ラインを増やすことも可能であろう。マスクの製造は、ひとつには雇用対策、ひとつには外貨獲得のための重点国策産業になっていると考えられる。
中国が武漢をはじめ大陸全土を封鎖していた期間、製造されるマスクはほぼすべて中国政府が買い上げ、必要な現場へ配給されていたのである。これはまさに社会主義的な統制経済の在り方である。それが大陸の封鎖が解かれ、海外へ輸出する段になるや、市場原理による原材料の価格高騰が直接反映されているのにはいささか閉口したくなる。

背後の事情はともかく、現場によって必要なものは必要なのであるから、これらマスクも必要な場所へ行き渡ることが望まれる。
日本は現在、欧州やアメリカからの帰国者に由来する感染の第二波の中にある。東京をはじめ、大都市に限らず「不要不急の外出」は自粛することが望まれる。せっかくの桜の季節ではあるが、西日本はあいにくの天候なのは「天の声」であろうか。
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感染拡大の第二波

........三月中旬あたりから香港における感染者数が急激に増加傾向を見せていた。
(騰訊新聞「新型冠状病毒肺炎・疫情実時追跡」) 三月中旬までは入院患者数が50〜60人で推移していたのがわずか一週間の間に280人にまで増えている。香港の友人に確認したところ「海外、とくにアメリカやヨーロッパから帰国した人の中で感染が確認された人が多い。」とのことである。
湖北省を別格とすると、現在の大陸における感染患者数ではいつのまにか香港が2位につけている。次いで、北京、上海と続く。北京や上海にしても、おそらくは香港と同じように海外との往来の人数の多さが影響しているのではないだろうか。
というような事をさっきまで書いていたら、東京でも本日3月25日に一日では最多の40人の感染が確認されたという。この件について小池都知事が20時から緊急記者会見を開くということだ。
おそらくは東京も香港と同じで、欧米からの帰国者の増加による感染者数の増加が要因ではないだろうか。
(新型コロナウイルス感染症患者の発生状況 厚生労働省) 2月から増加していった日本における感染者数は、クルーズ船の乗客の感染者を別にすると、3月中旬から収束傾向すら見せていた。この2月に入ってから今までの感染患者の増加は、言うまでもなく春節前後での大陸との往来に由来すると考えられる。
そして今回の感染者の増加は、いうなれば海外からの”第二波”で、感染が拡大するヨーロッパ、アメリカ、そのほかの世界各地からの帰国者に由来すると考えられる。

桜の開花が例年より早い今年であるが、日に日に気温があがり、日照時間も長くなり、紫外線量も増加している。これはウイルスにとっては環境が厳しくなってゆく事を意味しているが、油断は出来ないだろう。
感染はウイルス集合の中でも感染力の強いウイルスが感染してゆくわけで、いうなれば繁殖力の強い個体が増えるという事であるから、武漢で爆発したころよりも強い感染力を持つ可能性もある。

しかし個人レベルでは、風邪やインフルエンザの感染予防以上のことはできるわけではなく、それを念入りにやるしかない。しかしこのいわば全国民的な予防行動の徹底が、今や世界でも稀な感染の抑制を見せていたことも事実である。

新型肺炎の死亡率を低く抑えるのは病院など医師看護士医療機関、医療機器の仕事である。しかし感染症拡大の抑制は公衆衛生環境、衛生習慣の役割が大きい。生活様式に根差す衛生習慣は、その国固有の歴史、文化と不可分である。
”衛生観念”というが、衛生は観念に根差しているところがある。古代人はウイルスや細菌が目に見えたわけではない。しかし「ケガレ・ハライ・キヨメ」といった、日本古来の衛生観念が、やはりコロナウイルスの拡大を防ぐうえで力を発揮しているのではないだろうか?逆に考えると、古代の日本は疫病の流行に繰り返し悩まされてきた、という事でもあるだろう。それは史料に上る以上の被害を古代の日本社会にもたらし、それを防ぐための衛生習慣が、食器を共用しないなどの良くも悪くも「人と人との距離が遠い」日本人の生活文化、行動様式を生み出した、という事も考えたくなる。
古事記にある、黄泉の国にイザナギノミコトが下りて行った伝説も”愛しい者であっても死者は遠ざけねばならない”という事を教訓として知らしめているのかもしれない。

ともあれ、皆様におかれましても、今後も充分にご注意願いたい次第。
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老街の通行票

黄山市は人口およそ140万人の”小さな”街である。その黄山市では最大で9人の感染者が確認されたが、その後6名が退院し、2月22日現在の患者数は3名である。そして一昨日の21日になってようやく、それまでの厳重な外出制限が緩和されたそうである。
現在大陸全土では厳しい外出制限がしかれているが、黄山市は人口140万人に対して”たった10人に満たない”感染者が出ているだけにも関わらず、黄山市屯溪区の老街でも通行票を使わなければ外出することができなくなっていた。配られた通行票の枚数分しか、外出できないのである。市内の各所に”検問所”が設けられ、体温がチェックされ、マスクの着用と手の消毒を実施し、通行票を確認の上で入出できるのである。このような厳戒態勢は黄山市に限らず、大陸全土で行われているのである。

その老街に住んでいる朋友から先月末に「マスクが欲しい」という連絡が来たので何とか送ろうとしていたのであるが、郵便局でいわれたのは、関空は(救援物資の)荷物でごった返しており、個人的な荷物はとても届く見込みがないという。

航空会社各社は中国方面の便数を大幅に削減しているが、旅客機というのは乗客以外にもかなりの航空貨物を輸送するのである。基本的に、乗客がゼロでも貨物を運ぶだけで最低限の運航費用はペイする、というような話も聞いたことがあるが本当だろうか。ともあれ、旅客機が大幅に削減された事で航空貨物の輸送量が大幅に低下し、日本郵政は輸送機をチャーターしたほどである。それもひとつの原因であるが、さらにくわえて中国側の人員が圧倒的に足りない、という事情もあるという。ゆえに中国側に輸送できてもさばききれないのだとか。
しかし試案の日々を送るうちに、黄山市の感染患者数は治癒によって3人にまで減少し、厳重な外出禁止令は一応は解除されたようである。それどころかどうもここ数日、日本での感染拡大が中国で報道されており、朋友は私が買ったものの送れていないマスクを「いらないから日本で使って。」と言う。今度はこちらの心配をされているようである。

先週に入って大陸では新たな感染患者の数がやや減少傾向を見せ、治癒者も増えたため、感染患者の総数は減少傾向にある。厳重な外出制限が奏功し、またおそらくは治療法が確立され始めたためであろう。
一時は患者数が1200人を超えた湖北省随州も、2月21日現在873人にまで減少している。治癒した人数が386人、死者は28人である。患者数が増加傾向にあるうちは先が見えず不安を募らせていた随州の朋友も、今は早く封鎖が解除されて仕事を再開できることを願っているようである。
しかし朋友の話では、患者数が減少しているにも関わらず、外出制限が緩和されるどころか2月16日に完全な外出禁止令が発令されたのである。住民は誰も、一歩も、原則外出を禁止されるのである。むろん車両の通行も制限されたうえで、食糧や医薬品などの必需品はすべて配達されるのである。配達といっても、無料というわけではないのだそうだが、ほとんど配給に近い状況である。
患者数が減少傾向にあるところで外出規制を一層強化し、一気に収束に持ってゆこうという事であろうか。

中国の集合住宅はたいていは”小区”というエリアに区分されているのであるが、この”小区”は行政区分の最小単位でもある。小区ごとに、「何々委員会」というような、要するに中国共産党の末端組織が置かれている。その委員会を通じて厳重な通行管理が敷かれているのである。その委員会の権限というのは、日本の自治会などの比ではない。
いうなれば現在の大陸各地は戦時中の戒厳令下に近いものがあるのだが、このような体制を非常時という事で全国全土に施行することが出来てしまうあたりが、国家の体制が日本とは全く異質な国であることを思い起こさせる。
仮に日本で爆発的な感染拡大を見たとしても、このような厳重な統制は、とてもの事、実施出来ないであろう。ゆえに各自が自衛するに越したことはなく、また各界各組織がそれぞれに自主判断で延期するなり一時閉鎖よりない、という事になる。

日本でも目下感染拡大が懸念されている。武漢市のような医療体制の崩壊につながるような爆発的拡大の危険性も言われるが、それはさすがにどうであろう?武漢市の感染拡大の経緯はほかの地域と比べてもまさに別格である。
12月中に感染が市中に広がった後にも情報が隠蔽されたため、市民は全く無防備のまま、1月の中国における年の瀬の宴会やイベントによる接触によって感染者が増大し続けた。さらに春節の移動がほぼ終わった時点で武漢を封鎖したため、パニックになった市民が病院に殺到し、爆発的に病院内で感染が拡大してしまっている。
感染者が少ない段階で当局が早期に警戒情報を流していれば、大半の市民はその時点で自衛し、ここまで感染が拡大する事はなかっただろう。中国の年の瀬の宴会といえば個室の宴会場が多く、親しいもの同士や家族なら大皿や鍋に直箸である。深夜まで個室のカラオケに繰り出すこともある。家屋は土足で出入りする。オゾン殺菌の空気清浄機を置いている家庭は少ない。また日本のようになんでもかんでも”抗菌”加工された日用品であふれているわけではない。
さらに大陸中国に渡航の経験がないとわかりにくいことであるが、大陸の鉄筋建築には開閉可能な窓が少なく、排気や通風といった換気の環境があまり良くないのである。ビジネスホテルでも、窓のない部屋や、ごく小さな窓がひとつあるだけ、という部屋も珍しくない。通風孔があるにはあるが、適切に排気口に通じているのかどうか。レストランの個室についても同様である。
無防備であれば感染するな、という方が難しい環境であり、ゆえに早期に情報が提供されなかった事実は重大な意味を持つ。新型ウイルスの出現は災難には違いないが、武漢市の現在の状況は多分に人災の側面がある。

日本の衛生習慣や公衆衛生環境を過大評価するわけではないが、情報が行き渡り医療機関や市民が十分警戒している以上、情報がなく無防備のままウイルスにさらされた武漢市のような極端な状況になるとは、現時点では考えにくい。武漢市から感染者がちらばった中国各地も、厳しい外出制限が奏功したためでもあろうが、感染は抑制傾向を見せ、現在は収束に向かっている。
とはいえ、油断していいという事ではない。関係当局の対応は対応として、各自自衛につとめるよりない。船舶や病院、学校、スポーツジム、そして家庭内ということを考えると、やはりポイントは閉鎖された空間で感染している、という点だろう。道ですれ違ったくらいで感染するわけではない。不特定多数が集まる場所に長時間滞在することを避けるとともに、換気に気を配るべきでないだろうか。

一般に気温があがり、湿度が高くなるとウイルスの拡散は抑制されるという。乾燥しているとウイルスが軽くなって飛散しやすくなるが、湿気があると重くなるからだそうだ。暖かくなるにつれて、この新型肺炎が収束することを期待するよりない。例年にまして春が待ち遠しいところである。
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随州告急

騰訊新聞「新型冠状病毒肺炎・疫情実時追跡」で、一応は公式発表としての新型肺炎の感染情報が閲覧できる。

これによると2月7日現在、中国全土で感染が確認された患者数が前日から3163人増えて「31223人」感染が疑われる疑似病例が前日から4833人増えて「26359人」、治癒した患者が「1586人」、死亡者が「637人」となっている。まさに今世紀に限って言えば、未曾有の事態であるといえるだろう。
先月25日に「武漢封城」を掲載した際には、現場の医療関係者と思われる人々の間で交わされたと思われる、1月22日のタイムスタンプのついたSNSの発信情報を参照した。その会話内容では感染者は政府発表(当時400人)よりも二桁多い「四万人」と推定されていた。
感染が確定した患者数だけでも、おそらくはその時点での推定を上回るのは必至の情勢である。

湖北省、特に感染源とされる武漢市の状況はおそらく他の地域とは比較にならない事態にあると考えられる。武漢現地は病院も医師も看護士も足りないどころか、マスクや防護服などの医療用品の供給も不足し、したがって診断も治療も追い付いていない。
ゆえに感染者の総数について明らかになるまでは相当な時間を要すると考えられるのだが、かなり控えめな推測でも武漢市だけで少なくとも10万人、多くは25万人の感染者が存在する、という声がある。
新型肺炎による死者も正確にはカウントできていない。死者数に関する規模感は、後に武漢市の人口統計から推測するしかないのではないだろうか。
先日「随州封城」を掲載した時点で、深圳在住の朋友等が帰省した湖北省随州市には30名程度の感染者が発見されていたが、2月7日現在は915人にのぼり、死者は9人を数えている。
湖北省全体の統計でみると、感染患者数が11618人の武漢市、2141人の孝感市、1897人の黄岡市についで、随州の915人は四番目に多い。武漢市は別格としても、2番目に感染者の多い孝感市の人口は490万人、3番目の黄岡市は人口630万人に対して、随州は人口220万人である。行政区としては湖北省に12ある「地級市」の中では随州はもっとも人口が少ないのであるが、その随州の患者数は四番目に多く、すなわち武漢に次いで多い感染率である。
無論、湖北省における各都市各地域に感染者が多く分布するのは、武漢市内から帰省した人々が湖北省内に分散したためである。先日の武漢市長の発表では、武漢市内に900万人が残留し、500万人が武漢市内を出た、という事である。この500万人のうちの大半は湖北省の各地域に帰省し、さらにすくなからぬ人数が大陸全土、あるいは海外にまで分散したと考えられる。
残留者900万人にたいして武漢から離脱した人数が500万とすると、併せて1400万人である。武漢の戸籍人口は1000万、住民は1200万であるから、200万人は短期滞在者や武漢市を出入りした延べ人数の事であろう。武漢が交通の要衝たるゆえんであろう。
今年の旧正月は1月25日からであるから、武漢や随州が「封城」された時点では旧暦における「大晦日」であり、家族親戚そろって年越しの晩餐を過ごすのが習慣である。その晩餐の席で武漢市から帰省した者からの二次感染もあったであろう。そもそも、ほぼ帰省の大移動が終わってからの交通封鎖は遅きに失していた感は免れない。
あるいは圧倒的に病院の足りない武漢の状況を考えると、あえて帰省を許して感染者を分散させたのか?という疑念も残る。もし大多数が離れる前に武漢を封鎖していれば、武漢は今現在以上に過酷な状況になったのかもしれない。
大陸では1月の初めからがいわゆる年の瀬であり、忘年会等の行事も行われ、また年越しの買い物で各地の市場はごった返す。いうなれば年末のアメ横のような光景が武漢の市場や商店でみられたのであり、また大陸の宴会はたいていは個室の円卓を囲んで行われる。酒宴の後は個室のカラオケである。およそ大陸中国人であれば常識的にわかっている状況が見えていたにも関わらず、武漢市や中国政府当局の初期の対応はあまりにも疎漏に過ぎたといわざるを得ない。

大陸は旧正月には「拝年」という、各家庭を互いに訪問する年始参りの習慣があるが、今年は全国的に自粛されている。しかしあえて厳しい言い方をすれば「手遅れ」だったのではないだろうか。
確認される感染者が31253人、そのうち湖北省が22112人とすると、9000人程度が湖北省以外の地域に分散していることになる。しかし死者の総数637人のうち、湖北省だけで618人である。すなわち湖北省以外の地域での1万人あまりの感染者の間での死亡率はさほど高いものではない。湖北省以外の地域では患者数に対して医療機関の物量人員がまだ対応可能であり、適切な治療によって死亡率が低く抑えられているのであろう。
治癒者の総数は1640人であるが、湖北省全体の治癒者は840人である。およそ三分の二の患者を抱える湖北省の治癒者が全体の半数に過ぎないという事は、やはり湖北省の医療設備や人員、物資が不足しているという事を意味しているだろう。
もっともこれは公式発表を信じたうえでの推測である。おそらく、武漢市以外の地域の数値に関しては、ある程度の信頼を置いてもよいのではないだろうか。しかし武漢市に限って言えば感染患者の総数や志望者は依然不明確であり、現実の実際とはおそらくは桁を外れた差異があることが予想されるのである。

随州に話を戻すと、朋友の話では幸い随州は郊外に農村が多く、食糧品の供給には事欠かないという。しかし外出は厳格に制限される。大陸のマンション群はたいていは「小区」というエリアに区分されているのであるが、「小区」の入り口で保安要員に体温をチェックされ、発熱していないことが確認されてから初めて出入りできるのである。これはショッピングセンターやスーパーマーケットの入り口でも同じ措置が取られるのだという。
今のところ幸いに朋友家族に感染者は出ていないが、同じ「小区」から1名の感染患者が出たという事である。しかしその家族にはまだ感染者が確認されていないという事だ。

前述したように、随州は人口比で武漢に次ぐ感染患者が確認されており、すでに医療機関のキャパシティを超えそうな勢いであるという。随州市には「湖北省随州中心医院」が唯一の「国家三級甲等総合病院(最高格付けの総合病院)」であり、この病院が新型肺炎に対応する指定病院となっている。
現在中国各地から陸続と応援の医師看護士が湖北省に向かっているが、当然のことながら大半は武漢に集中して投入され、随州にはわずかに内蒙古から四名の医師が派遣されただけであるという。医療物資も不足し、現場では緊迫した状況が続いているという。

随州ではないが、大陸のほかの地域もほぼ交通が規制された状況にある。たびたび訪れている黄山市の朋友からも、マスクを送ってほしいという連絡が来た。安徽省は全体で665人の感染患者が確認されており、うち黄山市では9名の患者がいるという。湖北省の状況に比べればまだしもであるが、マスクなどの医療品は払底している。そこで少量ではあるが確保したマスクをEMSで送ろうと郵便局に行ったのであるが郵便局員さんが言うには「現在関空はマスクなどの荷物が多すぎて大渋滞中なので、しばらくしてから送った方が良い。」という事である。
ひとつには大陸中国では各企業が新型肺炎の蔓延をうけて春節明けの操業開始を2月9日から10日に延長しているため、物流、輸送も滞っているという事情もあるだろう。日本から中国側に届いても、中国側でもさばき切れていない可能性がある。また中国側通関をパスしても、その後の輸送がどうなるかはまったく不透明だ。
先日、京都の旅行会社につとめる友人から聞いたところでは、個々人が日本から送ったマスクも中国側ですべて強制的に開封、没収されて政府当局によって管理されている、という話である。ゆえに個人的な支援は届く見込みがない、ということだ。それほど大陸中国では医療品の欠乏が切迫している。

大陸中国の報道では、中国でのマスクの年間生産量は50億個であるという。日本の年間生産量を調べたら2018年の時点で55億個、というデータがすぐに見つかった。という事は日本のマスクの年間生産量と中国のそれがほぼ同じ、という事になる。日本でマスクの生産量ないし消費量が多いのは、花粉症の需要も相当量あるからだろう。
しかし日本のメーカーでも中国でマスクを委託生産しているところもあるから、中国の総生産のうち、どれほどが本来中国国内の需要分なのだろうか。なんにせよ、仮に10億人が毎日マスクを1個使い捨てにしていたら、10日で日本と中国の年間生産量のマスクが消費されてしまうことになる。それは仮定の話であるが、現実に大陸中国の最前線の医療機関でも防護服はおろかマスクが欠乏しているのである。本来は日本のメーカーが中国の工場に生産を委託していた分も中国政府の要請で中国国内向けに回されている。また日本の国産マスク工場は24時間フル稼働でマスクを量産しているという。それでも目下、大陸、特に湖北省や武漢では充足しているという話は聞かない。

そういう意味ではやっと入手して黄山市の朋友に送ろうとしていたわずかばかりの”DS2”規格の日本製マスクも、随州なりの大陸の医療機関で日夜苦闘を続ける医師や看護師に送りたい気持ちもあるのだが、確実に届く手段が今のところは見えない。
日本の薬局、ドラッグストア、コンビニからもマスクが消えた。もっとも新型肺炎の予防にはマスクよりも手洗いうがいが有効であるという。それはそうだろう。
日本ではまずしないが、大陸の生活習慣上の懸念としては、外履きのまま部屋にあがるというものがある。これも現在は外履きの靴は屋外に置くことが推奨されている。

日本の感染状況も予断を許さないものがあるが、今世紀に入って未曾有の大災害である。初動の問題など多分に人災の面が否定できないが、災害の規模でいえば2008年の四川省汶川の大震災に匹敵するものがある。日本は日本で国内での感染拡大を厳格に予防しつつ、余力があれば大陸中国、特に武漢市や湖北省への支援も行ってゆかなければならないだろう。早期に収束しなければ、中国のみならず東アジアと世界経済にもすくなからぬ影響が出るのは確実である。
そしてもし要路にあたる方がこの拙文をお読みいただいたのであれば、湖北省の随州という街の事も、気にかけていただければ幸いである。
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随州封城

......先に「武漢封城」を掲載した翌日、やはり懸念した通り随州も「封城」されてしまった。これで湖北省南部の過半が「封城」されたことになる。交通封鎖は湖北省に限ったことではなく、上海や北京、天津といった都市でも徐々に移動が制限され始めている。
浙江省温州のとある小さな村に帰省した知人がいるのだが、人口千人程度の小さな村も「封村」されたという事だ。もっともこれは感染者の流入を防ぎたい村人が自発的に行っている行動のようで、町から村に通じる道路を閉鎖し、検問のようなことを行っているということである。このような動きはおそらく大陸全土に及んでいるのであろう。

懸念されるのは感染の拡大もそうであるが、経済への直接的な影響である。春節後の中国経済は、少なからぬ混乱を呈するのは必至である。今や全国的に人の移動が制限されているのであるから、仕事どころではない。すでに海外旅行への団体旅行は当然のことながら、国内旅行も禁止されている。旅行業、宿泊業から小売、飲食にとどまらず広範な経済活動に影響するだろう。
SARSの際は香港の不動産は70%暴落した。普通に考えれば春節後に武漢を中心に湖北省一帯の不動産は暴落、余波は全国に広がるだろう。放置した場合に銀行が連鎖倒産するなどの金融危機は不可避である。金融危機を防ぐために強い資本規制、すなわち預金の引き出し制限や送金の制限などが実施される可能性が高い。
あるいは不動産の売買そのものを停止する可能性もある。今日現在で春節の休暇が2月2日まで延長されている。Uターンによる人の移動を抑制すると同時に、株式や不動産など、あらゆる”市場”の再開を延期させる措置ではないかと思われる。

自身はその道の専門家ではない、という事を断ったうえであるが、今後患者数の増加を注視しなければならないだろう。武漢市内で濃厚な接触をした人々の間での感染が感染経路の大半であり、「封城」後に二次感染が抑制されているとすれば、どこかで感染者の増加が頭打ちになるはずだ。現在の感染者の増加は感染が診断された患者数であり、医療機関側の検査体制が増強の状況に左右されるのである。とはいえ、感染力が増強しているという観測もあり、まったく予断は許さない。

武漢の医師はざっと3万人。また”官報”によれば北京からは一万人の医師が武漢に派遣され、また近く2万人の医師が全国から集められ、さらに武漢に向かうという。医師だけではなく、看護士の随伴も相当数に上るだろう。
以前に書いたが、武漢出身の作家である池莉の作品「不断愛情」は、医師の家庭に生まれ自身も医師になるエリートの男性と、下町”花楼街”に生まれた女性との恋愛・結婚がテーマである。武漢というと武漢大学医学部を筆頭に大学病院、病院、薬局が多く、医療の充実した都市として知られているのである。その武漢をしてベッドが足りない、医師も看護士も足りない、というのが現実なのである。
早い段階で武漢現地の医療機関関係者から漏れ出た情報では感染者は少なくとも4万人。現在では10万人の感染者の存在を肯定する声が高い。日本で報道されているような、武漢だけで数百人とか中国全土で2千人というようなオーダーの話ではない。

昨日26日付の武漢市長の声明によれば、武漢を離れた人の総数はおよそ500万人。900万人が残留しているという事である。武漢は戸籍人口1000万人、住人1200万人の都市であるが、一時滞在や春節前に通過した人の数の総数がそれくらいなのかもしれない。湖北省のみならず、大陸南西部における交通の要衝であるから、その数値はまったく誇張ではない。

湖北省随州に閉じ込められた朋友の話では、昨日今日は路上を走る車を多くみるという。自家用車を有する人々が脱出を図っているのではないか?ということである。こんな時は勧告される通り自宅でおとなしくして自身の感染を防ぎ、また感染の拡大を防ぐべきなのであるが、そうとは考えない向きも多い、という事なのだろう。先の温州の片田舎の「封村」も、そうした一部の人間の行動を受けての措置なのであろう。

随州の朋友には2歳の男の子がいるのだが、昨日から喉が痛いという。熱はまだ無いということだ。ただの風邪の初期症状なのかもしれないが、病院に行くこと自体が感染リスクを高める行為なので考え込んでいる。先日、随州市でも30名の感染疑いが確認されたが、いまや感染が確認された患者が30名を超えているのである。武漢から高速道路で2時間程度の距離にあり、武漢から帰省した人も多いのであるから感染者出ないわけにはいかない。今のところ「封城」が解除される見通しはない。

現在、日本で発見された感染者は武漢から来日した人に限られている。しかし潜伏期間が二週間と長いため、日本における二次感染の状況が見えてくるのは、早くとも2月上旬あたりなのかもしれない。武漢の人だけで10万人が日本への旅客申請をしていたという。中国政府は海外への団体旅行を禁止したが、個人の渡航がどこまで制限されているのかは不明である。ともあれしばらくは予断を許さない状況が続くだろう。
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